コロナ・ショック 試練の先に~4~

NPO法人TAMASU・中村理事長
地元の素材活用による生業は、レトルト食品の開発にも結び付いている

素材活用、新たな展開へ

弧状に広がる白砂、アダンの群生、幹や気根が絡まる様子が勢いを感じさせるガジュマル…。こうした風景もこの集落に足を運ぶと「残されている」のではなく、「生かされている」ことが伝わる。

大和村の国直集落。「シマの素材(宝)で生業ができないか」。これが出発点だった。2015年に発足したNPO法人TAMASU(中村修理事長)。国直集落を舞台に、祖先から受け継いだ自然や文化、コミュニティーを生かした活動を展開。主な事業として推進しているのが、▽奄美大島の多様な自然環境や伝統文化の保全▽観光の振興および情報の発信による都市と農村の交流▽人材や地域資源を活用したコミュニティービジネスの展開による地域活性化―の三つ。

事業推進でベースにしているものがある。「生み出された恩恵(利益)をみんなで享受していく」。経済の集落内での循環であり、これはNPOの名称の由来にも関係する。「TAMASU(たます)」とは、奄美大島に伝わる方言で、利益の共有と均等分配を意味する言葉だ。NPOの事業の柱は体験型観光(集落散策、食など伝統文化・行事、海辺などでの遊び)の受け入れ。主に関東方面から、ネット検索で興味がわいたという若い女性やカップルなど個人旅行客の利用が多く、それによって利益が生み出され、関わった人々間で共有・分配されてきた。ところが激変に見舞われている。

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NPO発足後の体験型観光の実績(利用人数・売り上げ)をみてみよう。初年度の120人・61万円から、2年目の16年には306人・133万円と2倍強に上昇。17年404人・199万円、18年730人・322万円と順調に推移。19年は千人台の利用者となり、売り上げは390万円と400万円近くまで伸びた。今年は1200人・500万円を目標に掲げたものの、新型コロナウイルスの影響を受けている。

最初に直面したのが2月の関東からの団体客(高齢者のツアー)で、集落内散策と鶏飯づくり体験をメニューとしていたが、30人の予約が20人に減少。それでも3月に入ると大学等の卒業旅行として奄美を訪れた若い人たちの利用があり、「3月で比較すると昨年と同じ程度の実績で、落ち込みはみられなかった。だが、4月に入りぱったり途絶えてしまった」。理事長の中村さん(52)は説明する。

政府による7日の緊急事態宣言を受けて中村さんは決断した。営業停止、休業だ。「ミーティングを開き、私を含めて3人(18年に1人、19年に1人と計2人をガイドとして雇用)で協議しての結論。首都圏など移動自粛地からの予約がいくらかあったが、全てお断りさせていただいた。『感染者が出ていない島内は安全』として訪れる島外からの移動客を受け入れた場合、消毒用のアルコールやマスクも十分に足りていない中で接触・対話などで感染する危険性がある。集落は高齢者が多い。こちらが感染源になってしまうと取り返しのつかない事態を招く」(中村さん)。

休業は長引く可能性がある。ガイド業務ができない中、2人の雇用を維持できるだろうか。中村さんは語った。「休業補償よりも仕事がほしい。現在、行政から委託を受けての海岸清掃や道路の維持管理などの作業をしている。こうした作業は、NPOの活動で欠かせない景観の保全につながるだけに、地元の市町村には委託作業の発注をお願いしたい」。

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行政に頼るだけでなく自らも新たなビジネスに動き出している。海と山の幸である食材を生かし、普段食べている料理のレトルト食品づくりだ。専用の機械を購入し、村の水産加工施設で昨年から試作品づくりを重ねてきた。生のままで具材をレトルトの袋に入れ、味付け後に袋を密閉、高温・高圧を加える。120度・20分で殺菌処理できる。これまでに地元でとれたウルメやトビイカ、トビウオの煮つけ、塩ブタとツバシャを材料にしてのウァンフィネヤセ(豚骨野菜)等のレトルト食品を試作。専門講師のもと研修も開催した。

缶詰の食品と異なり見た目は作り立てのようで味もまろやか。高圧処理されているため魚の骨でも食べることができ、高齢者や子どもにも好まれそうだ。なによりも常温で保存できるのがレトルト食品の魅力だろう。「休業期間中に商品開発に磨きをかけたい。パッケージデザイン、販売ルートも急ぎたい。感染拡大で外出を控える動きに伴い、自宅での過ごし方を楽しむ『巣ごもり消費』に応える商品にもなるのではないか」。

材料となる食材は地元で調達(漁業者や農家から購入)しており、販売が軌道に乗れば食材の購入量増により地元の人々も潤う。TAMASUの理念はコロナ禍でもしぼむことなく開花し続けようとしている。