コロナ・ショック 試練の先に~5~

患者からの電話相談に応じる野﨑義弘所長


注意点など表示している診療所入り口

空白危険性とオンライン診療期待
住用国保診療所・野﨑所長

 県健康増進課が作成した「新型コロナウイルス感染症対応フロー」がある。帰国者・接触者相談センター(名瀬・徳之島保健所など県保健所)への相談の目安として挙げているのが、▽風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上継続▽強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)あり―で、高齢者や基礎疾患(心筋梗塞や糖尿病など)等がある人は、こうした状態が2日程度続くと相談を挙げている。

 まず電話相談を求めており、受診調整を経て帰国者・接触者外来(感染症指定医療機関で奄美群島では県立大島病院のみ)で受診。感染の「疑いあり」となった場合、保健所経由で検体が県環境保健センターに送られ、ウイルスの有無を調べるPCR検査で「陽性」と判定されると、感染症指定医療機関に入院となる。

 このフローも離島の場合、スムーズに流れない。検体はゆうパックで送付されるが、船舶だと鹿児島市にある検査機関に届き、結果がわかるまでに3~4日かかる。疑いに対し判定結果が出るまでのタイムラグは、本人だけでなく周辺の人々にも大きなストレスを与えるだろう。陽性者を受け入れ治療を担う感染症指定医療機関も限られている。奄美群島で考えてみよう。指定機関が所在するのは奄美大島だけで、県内2例目となる感染者が確認された沖永良部島の和泊町では、島内に指定機関がないため特例的に結核モデル病床での対応となった。

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 「こちらは過疎地・僻地にある医療機関。内科・外科・小児科・整形外科の診療科目を医師一人で対応しており、万一、診察者の感染が疑われ、こちらが濃厚接触者として検査が必要となると、待機期間の2週間、医療がストップする。地域の人々が診察を受けることができない〝医療空白〟が生じてしまう」。奄美市住用国民健康保険診療所長の野﨑義弘医師(58)は説明する。

 人口1235人、65歳以上の高齢化率45・51%(今年4月1日現在)の住用地区。子ども達から高齢者まで人口の三分の一にあたる月平均400人弱の住民が診療所を利用している。地域の安心を保つため、人々の身近な存在としてお互いの顔が見える関係を医療で築き提供している野﨑さん。医療空白は地域の安心を根底から揺るがす事態になるだけに、有熱者などの診察は慎重に対応せざるを得ない。

 また、「大手の医療機関などが優先されているのだろう。何度頼んでも、なかなかこちらにはこない。枯渇状態にある」(野﨑さん)というマスクを始め防護服、ガウン、消毒用エタノールなど医療装備も不足している。診療所では、こうした感染症以上に、通常の肺炎や高血圧、基礎疾患など日常の診察こそ地域の人々から望まれているという事情もある。

 地域内に他の医療機関が存在しない中、感染症リスクを理由に住民の診察を拒否できない。そこで取り入れているのが、いきなり受診ではなく、前段階として電話相談だ。集落放送を活用し、感染症が疑われる発熱などの症状が出た場合、診療所への電話相談を呼び掛けたところ、さっそく翌日から電話(休診中は野﨑さんの携帯電話に切り替え)が寄せられている。診療所休憩時間(昼食時間)を利用しての取材中も野﨑さんの携帯電話の呼び出しが鳴った。住民の問い合わせに野﨑さんは丁寧に応じる。こうした姿勢が地域の安心を生んでいるのだろう。

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 現在のところ島内(奄美大島)での感染者は出ていないが、そのリスクは常にある。診療所内だけでなく特養など福祉施設に出向くこともある野﨑さんが住民への浸透で心掛けているのが、「正しく恐れる」大切さ。感染が持ち込まれることへの警戒では島外からの移動に注意しなければならないことから、島外旅行歴のある人、島外移動者との接触などで相談に応じ、正しい知識を伝えている。

 電話相談だけでなく「オンライン診療(遠隔診療)」も計画している。診療報酬請求が可能となるよう2年前に届け出済み。医療機関に出向かなくても患者はスマートフォン、医師はパソコンやタブレットを通して診察する診療方法だ。セキュリティーの問題から認められるソフトが限定されていたが、今回の問題を受けて緩やかになりつつあるという。幅広く利用されているアプリ(LINEなど)の活用が可能となれば普及が期待される一方、住用地区で少なくない同居家族不在の一人暮らし高齢者の場合、スマホ(患者側が)を使ってのオンライン診療は難しい。防犯カメラの活用など代替手段を検討しなければならない。

 診療所だけでなく開業医を含む医師一人体制の診療の在り方、オンライン診療の普及。新型コロナ問題を契機に進展したら、新たな地域医療のかたちが見いだせる。