かかりつけ医とゲートキーパー役割

奄美群島で唯一の県指定医療機関となっている県立大島病院。脆弱な医療体制の離島では感染者を出さないことが重要となっている

脆弱な離島医療補う連携
「なんでも相談できる」気楽さが信頼に

 メールや電話、FAXで寄せられる紙面に関する意見で新型コロナウイルス感染拡大以降、共通するものがある。島外からの奄美への移動について。先日はこんな電話があった。「3月に島外から奄美に移動した人が、その後の奄美に対する自分の行為をまるで自慢話のようにSNSで発信している。行為自体は地域に歓迎されたとしても感染症を離島に持ち込む危険性があったという行動への自覚がない。失礼な表現かもしれないが、離島の医療体制は脆弱なのに。記事として取り上げることに対して新聞社も慎重になるべきだ」。

 奄美の感染症医療体制。結核病床を除くと感染症指定医療機関は1カ所(県立大島病院)4床のみ。PCR検査センターもなく、奄美大島で男女2人の感染が確認された際、濃厚接触者を含めて検体は鹿児島市にある機関に輸送して検査が実施された。地続きではないため空と海の交通手段を頼っての輸送の必要性、限られた専用病床。確かに本土に比べると離島の現状は脆弱で心もとない。

 感染者が広がると離島の医療は瞬時に崩壊するかもしれない。それを防ぐために島外からの移動自粛(来島控え)の呼び掛け、空港・港での検温など水際対策強化が進められている。島外から持ち込まれることへの警戒と同時に、島民の感染防止へ脆弱を少しでも補う方法はないだろうか。

 医療崩壊を防ぐには、地域にある専門医や開業医などを含めて医療機関の連携が欠かせないとして、その役割を担う「かかりつけ医」の重要性を指摘する専門家がいる。具体的には、「かかりつけ医が検査の有無の判断や必要に応じた病院の紹介といった『ゲートキーパー』の役割を担うべき」という主張だ。

 鹿児島県医師会では2015年4月から「医師会認定かかりつけ医制度」を推進している。制度で掲げているかかりつけ医の定義は、「なんでも相談できる上、最新の医療情報を積極的に学び、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」。医療的役割として、▽日常行う診療では、患者の生活背景を把握し、自己の専門性に基づき、医療の継続性を重視した適切な診療を行い、自己の範ちゅうを超えるさまざまな診療科にわたる広い分野において、地域における連携を駆使して、的確な医療機関への紹介(病診連携・診診連携)を行い、患者にとって最良の解決策提供▽自らの守備範囲を医師側の都合で規定せず、患者のもちかける保健、医療、福祉の諸問題に、なんでも相談できる医師として全人的視点から対応―を挙げている。

 まさに「なんでも相談できる医師」としてかかりつけ医を長年実践してきた元開業医(77)がいる。「患者さんとの信頼関係を最も心掛けてきた。診察では医療に関することだけでなく日常的なことを含めて、顔をみながらじっくりと話を聞いた。それによりいろんな相談を受けることができた。医者として専門的な話を一方的にするよりも、相手の話も聞きながらの会話を重ねてきたことで信頼してもらえたのではないか」。

 診察する機会も間隔を長くするのではなく、月に2~3回の割合にしたのも理由がある。「表情や言葉などによって病気の状態や体調の変化が把握できる。次の診察までの間が長いと変化に気づくのが遅れるのではないか。専門医に紹介し適切な医療を施すうえでも、つなぐ役割としてかかりつけ医は身近な存在でありたい」。医師が話しやすい雰囲気を心掛けることで患者は気楽に受診でき、相談もしやすい。患者の顔を見ることなく、カルテを見ながら説明するだけの医師に患者は親しみを持てるだろうか。

 かかりつけ医の目標の一つに「患者さんの現在の病気だけでなく、これまでの健康状態を理解し、適切な治療を行う」がある。新型コロナウイルスなどの感染症の場合、診察にあたる医師も感染する危険性から対面を避ける方法として初診から可能になったオンライン診療が注目されている。このオンライン診療を推進していく上でも、患者の健康状態を把握しているかかりつけ医が存在していたら、よりスムーズに適切な治療が実現するだろう。

 身近なかかりつけ医を実践してきた元開業医は語った。「感染した人は災害に遭ったようなもの。決して責めてはならない。自分を守り家族を守り、そして島を守る。島特有の文化を今こそ自覚していきたい」。
 (徳島一蔵)