コロナ禍・奄美のために出来ること=④=

奄美とアイヌの民謡コラボライブの出演者らと朝崎さん。円内は、映画「神の唄」の記者会見(2019年2月)

世界の舞台でも聴衆の魂を震わせる唄の原点は、奄美の風景
今の自分があるのは島のおかげ終息後は無料ライブを

 「奄美のためにできること。新型コロナウイルスと私は戦う!」の第4回は、奄美を代表する唄者・朝崎郁恵さんを取り上げる後編。1984年から10年連続で国立劇場公演をこなした彼女は、3年後インディーズから発表した「海美」の収録曲「おぼくり~ええうみ」が細野晴臣らにより紹介され、世界的に知られるようになる。 (東京支局・高田賢一)

 感謝の意味を込めて、聴く者の魂を震わせる唄。一躍メジャーへの舞台へ。

 「『おぼくり~ええうみ』は、編曲・伴奏をされた方(高橋全)が二つの唄を合わせたものです。おぼくりは、奄美の古語で『ありがとう』の意味があり、唄うたびにその喜びをかみしめております。カーネギーホールでの公演でも同じでしたね。あれから30年たちますが、最初カーネギーと聞いたときに、どこだか分からず『川ネギホール?』それはどこですか?と聞き返すほどだったんですよ(笑い)。おぼくりは、『あらやしき~』と唄いだされるように、本当は『新屋敷』という唄です。4番までありますが、おそらく私以外誰も唄えません。終息しましたらぜひ、奄美の人たちの前で披露したいですね」

 『新屋敷』は仏教の『阿頼耶識=あらやしき=』にも通じるのかもしれないと語る朝崎さん。それほど深く濃い唄を育んだのは、故郷の風景も無縁ではなかった。

 「生まれた花富=けどみ=は、海に近い集落で土地があまりありませんでした。ですから山を削って芋を植えて、母はそれを収穫に行くのです。幼い私と妹は、浜辺で母の帰りを待ちわびているのです。きっと妹に唄って聴かせていたことでしょう。そんな二人のもとに、母は日が傾いたころ、影絵のように帰ってくる。故郷の空気や音は原点です。今でも波の音を入れながらライブをするのは、そのためなのです」

 自らがノロ(女性神職)として出演する、映画「神の唄」も新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた。

 「映画(神の唄)の休止も『今はちょっと休んで、次に備えなさい』という神のお告げだととらえております。それから1月31日に都内で行った、奄美とアイヌの民謡コラボライブは、9月に北海道で開催する予定(未確定)です」

 「自分があるのは島のおかげ。恩返しをしたい」と奄美への思いをはせる朝崎さんは、「落ち着いたら、古仁屋、住用で無料のライブを行いたい」と語る。神に導かれた唄声の主が、次にバトンを継ぐのは元東京瀬戸内会会長の山下良光さん。

   ◇

 朝崎郁恵(あさざき・いくえ)1935(昭和10)年11月11日瀬戸内町加計呂麻生まれ。10代にして天才唄者と言われる。奄美島唄の伝統を守り、世代を超えて人々の魂を揺さぶっている。米ニューヨークカーネギーホールなど国内外の数々の舞台を経験する傍ら、数多くのアーティストらと共演。