命守る意識高めてこそ

7月1日の大雨では、奄美大島でも4カ所で崩土が発生した(県道名瀬竜郷線の円=嘉渡間、同日午前9時15分ごろ)

 

情報生かし早めの避難を
気候変動、想定変わる防災気象情報

 

 雨が勢いを増し、災害の危険が刻々と迫っている。そのとき注意すべきは「避難勧告」か、それとも「避難指示」か―。二つは「大雨警戒レベル」で発令される避難開始を知らせる「レベル4」に属する区分。「勧告」は対象地域の全員に速やかな避難を促し、「指示」は災害発生の恐れが極めて高く、直ちに避難が必要な場合に発令される。内閣府は、二つの区分がわかりにくく逃げ遅れる事例が後を絶たないとして、「避難指示」への一本化を打ち出し、来年通常国会での改正案提出を目指す。

 二つの言葉の違いが分かりにくいことは、内閣府が昨年の台風19号で被災地となった40市区町村の住民を対象に行ったアンケートででも明らかだ。「勧告」と「指示」を正しく認識していた人は17・7%にとどまり、実際に避難を始めるタイミングを「勧告」とした人は26・4%。一方、「指示」が出てからという人は40・0%に上った。

 「大雨警戒レベル」は2年前の西日本豪雨災害を教訓に、住民の避難行動を容易にするため5段階に設定し、昨年導入した。防災情報が難解だとして、住民が対応を直感的に理解できるようにするのが狙いだったが、理解できているとは言い難い。

 名瀬測候所によると大雨警報は現在、土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度を評価・判断する「土壌雨量指数」「表面雨量指数」「流域雨量指数」の三つの指数を用いて、これまでの災害事例に照らし合わせながら発令している。発令後はホットラインを通じて速やかに県に伝達。県は自治体に伝え、自治体はそれぞれの規準に沿って防災無線やホームページなどで住民に知らせる。

 以前は1時間の降水量を基準に判断していたが、気象庁では、最悪の事態は避けるため基準を見直した。同測候所の土屋春彦観測予報管理官も「特別警報を待っていてはダメ。特別警報はすでに災害が発生している状態で、対応なども限られる。事前にハザードマップなどを確認しておき、遅くても避難勧告がでた時点で速やかに避難してほしい」と早めの行動を呼び掛ける。

 気象庁は昨年、気候変動監視レポート2018を公表し、豪雨災害に関してこれまで明らかでなかった地球温暖化との因果関係に言及した。想定を超える雨量の多発については〝新たなステージ〟と捉えて、「少なくとも命を守り、社会経済に対して壊滅的な被害が発生しないことを目標とし、危機感を共有して社会全体で対応することが必要」として、可能性が低い状態でも〝発生の恐れ〟を積極的に伝え、危険や切迫度をわかりやすく情報提供していくとの方針を示した。

 迅速な避難には、地域ぐるみの態勢づくりも急がれる。国、県、市町村の間で災害情報が的確に伝わることが前提だ。さらに地域へ伝わった避難指示を、住民の間で共有できなくてはならない。だが、受け手側に関心がなければ、優れた情報も意味をなさなくなる。

 先のアンケートでは、全員避難について「災害の危険がないところにいる人も避難する必要がある」と答えた人は39・5%に上る。警戒レベル5の災害発生情報については「市町村が指定した避難場所等に速やかに避難したほうがよい」と回答した人は37・9%おり、多くの人が誤った認識であることが垣間見える。

 気候変動で、大規模災害への備えも待ったなしの状況だ。梅雨は、日本人がこれまでイメージしてきた「しとしとと長雨が降る季節」ではなく、「危険で身の安全を守らなければならない季節」になっている。防災情報は〝自分ごと〟として正しく理解してこそ、安全につながる。

 奄美豪雨災害から10年。奄美はまだまだ台風も多い時期だ。それぞれが想定自体を見直すとともに、少しでもリスクのある地域の人は、これまで以上に早めの行動が求められる。命を守るための情報を生かすためには、一人ひとりの意識づけが欠かせない。                           (青木良貴)