吸蜜植物が刈り取られることなく保護されているため、多くのアサギマダラが南下している長雲峠
日本列島を長距離移動するチョウ・アサギマダラの秋の渡りは、今年は期間の幅が広く、現在も本州から南西諸島への南下が報告されている。奄美では喜界島と奄美大島で地元の児童生徒による観察やマーキング(翅=はね=への標識)が行われているが、専門家の調査により両島に飛来するアサギマダラは、大きさ・重さ・翅の状態などに違いがある可能性が出ている。
11月の第1週から3週まで、3週間にわたり両島間を移動しマーキングを通して生態観察を行ったのは、アサギマダラ研究家として知られ、『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』などの著書がある栗田昌裕さん=群馬パース大学学長、医学博士=。奄美大島では龍郷町の長雲峠、奄美市住用町の三太郎峠などで、喜界島では滝川林道などでマーキング調査に取り組んだ。
栗田さんは「奄美大島では吸蜜植物(ヤマヒヨドリバナなど)が草刈りなどで刈られることなく、きれいに残っていた長雲峠でアサギマダラがたくさん見られ、毎回30匹マークできた。地元で熱心にマーキングをされる方がいる喜界島はとてもたくさんいた」と語る。喜界島では栗田さんがマーキングしたものの再捕獲も確認。8月下旬、いずれも福島県(グランデコスキー場)でマーキング後、放蝶したもので、福島から喜界まで1420㌔の移動距離になる。
奄美大島と喜界島を移動しての調査で判明したことがある。同様に本州から南下してきたが、違いがあるという点。栗田さんは、喜界島に飛来しているアサギマダラについて▽大きさは5㌢以下、重さは0・3㌘以下の割合が多い、奄美大島は▽5㌢以下、0・3㌘以下の割合が少ない―と指摘する。アサギマダラの一般的な重さは0・3㌘ほどで、それより重いと大きい、軽いと小さいと判断されている。奄美大島に南下するアサギマダラの方が大きいという。さらに栗田さんは翅の状態の違いも挙げ、「喜界島では翅が破れたものが多く、奄美大島はきれいなものが多かった。隣同士とも言える二つの島への北からの移動で、なぜこうした違いが起きるのか不思議。謎の多さがこのチョウの魅力となっている」と話す。
今年の全体的な秋の渡りの特徴としては、南西諸島に到着する時期が1週間程度ずれ(遅れ)ているほか、台風の上陸がなかった関係から影響を受けなかったことを示すように翅の痛みが少なく、きれいな個体が多いという。「のどかに飛んできているのではないか」(栗田さん)。南下数は多いものの、再捕獲の報告は少ない傾向にあるが、栗田さんの再捕獲では、9月20日に長野県大町市(のっぺ山荘)でマーキングしたものが、11月10日に台湾の西側にある島(澎湖諸島)で再捕獲された。移動距離は2277㌔で、5例目の報告という。
メモ
アサギマダラ タテハチョウ科のチョウで、アゲハチョウほどの大きさ。翅へのマーキングが可能なため、春と秋には1千㌔から2千㌔もの旅をすることが確認されている。翅に標識を書いて飛ばし、遠隔地で再捕獲するマーキング調査の愛好者は全国に存在する。