継続へ連携㊥~コロナ禍の在宅介護~

高齢者の心身の衰えを予防するために介護サービス提供継続の意義を強調する大和診療所医師の小川さん

医療的知識も必要に

 介護事業所協策定の介護サービス提供継続支援計画。新型コロナウイルス感染症の感染者が確認され、介護サービス利用者(単独事業所で3人以下)が感染者または濃厚接触者と確認、あるいは集団発生した場合(警戒レベル4~5)の対応をみてみよう。

 レベル4の段階なら「介護サービス提供継続支援」を実行する。支援チームは、県や市町村の関係行政機関から感染者情報が提供された場合、速やかに感染者の担当介護支援専門員および利用している介護サービス事業者の責任者を招集し、介護サービス提供継続検討会議開催、介護サービス計画書(ケアプラン)作成、応急的な支援の内容および支援対象者の確定などの手続きを経て支援が実行される。

 警戒レベルが最高段階まで上昇すると対応は大きく異なる。支援対象者が予測数を上回ることから、「支援チームおよび介護サービス事業所・医療機関が事業を継続することが困難となる(介護崩壊・医療崩壊)可能性を秘めている」ことから、介護サービスの提供を継続するための行動を「行政・民間の垣根を越えて応急的、かつ、継続的に実施する」としている。この文面からも緊迫感が伝わる。介護サービスの提供継続を目指すものの、クラスター(感染者集団)という重大局面を前に民間の連携だけでなく、官民での連携が支援実行の鍵となりそうだ。

 ■継続の意義

 支援チームの活動開始となった最初の研修会で講師を務めたのが、国民健康保険大和診療所・所長(医師)の小川信さんだった。小川さんは県医師会新型コロナウイルス感染症相談窓口となっており、与論島で発生した最初のクラスターの際には現地に派遣された。与論で唯一の総合病院である徳洲会病院での医療支援(PCR検査など)のほか、町が開催した対策本部会議にも出席し医師の立場からアドバイスを送った。

 介護関係者を前にした研修で、小川さんは高齢者のフレイル(心身の衰え)予防を取り上げた。自立高齢者への悉皆調査(4万9238人)結果を紹介。身体活動(運動習慣)、文化活動、ボランティア・地域活動といったさまざまな活動の複数実施とフレイルへのリスクをみた場合、「活動なし」が最もフレイルリスクが高いが、「運動習慣なし他の活動あり」「運動習慣あり他の活動なし」でもフレイルリスクが存在する。

 小川さんは「フレイル予防には『人とのつながり、関わり』が大切。(ヘルパーが在宅で関わる訪問、デイサービス展開へ事業所で迎え関わる通所といった)在宅サービスの継続はフレイル予防効果がある」と強調する。

 医療の立場からも介護の継続の必要性を挙げる。課題として考えられるのが従事する職員の意識だ。高齢者介護への向き合い方。有事とも言える新型コロナ感染症を前にしても各事業所の職員が均等に高い意識を持ち続けることができるだろうか。

 各事業所では感染防止へ毎朝の体温測定、症状の確認、行動の記録といった職員の健康管理が進められている。さらにクラスター発生の原因となりやすい休憩室・更衣室での過ごし方も注意しなければならない。解放的な気分に浸ってしまう休憩でもマスクを外してはならず、部屋の広さ、換気、人数制限などによる感染防止策も欠かせない。最も重要な感染症発生時には介護の知識・技能だけでなく、職員には医療的知識も求められると言えないか。

 「事業所によって職員の意識に差があると感染防止あるいは予防を徹底できない。介護職は医療的知識の面で不利だけに、それを補い自信を持っていただくため、今後も研修などで講話し協力していきたい。こちらから各事業所に足を運ぶことも心掛けており、実際に行っている。いつでも声を掛けてほしい」(小川さん)。

 研修は知識だけでなく実技も必要という。支援チームは感染者、あるいはその疑いがある人(現場)に接することも考えられる。「防護服の着脱訓練も必要。初めてだと緊張してしまい、自分で着脱できないという事態も目の当たりにしてきた。支援チームは介護の専門家だが、安全確保を第一に活動をしていくためにも研修(訓練)の場を。繰り返すことでハードルが下がるだけに、今後も医療的な立場からアドバイスしていきたい」。小川さんは語った。

 ■行政も連携

 「クラスター発生への警戒から高齢者福祉施設に関しては、県の呼びかけにより、鹿児島県と鹿児島県老人福祉施設協議会・公益社団法人鹿児島県老人保健施設協会とで覚書を交わした上で、職員を派遣し合う形(相互救援体制)が整えられている。在宅介護サービスでは、事業者のみなさんの主体的な取り組みでサービス提供を継続する支援体制が誕生した。行政としても連携して活動に参画するなど一緒にやっていきたい」と語るのは奄美市高齢者福祉課の川畑博行課長。

 同課は介護事業所協と当初の話し合いから関わってきた。「地域で暮らす高齢者の生活を守るには、行政だけではできることが限られている。民間の力、協力が必要だけに今回の取り組み(支援チーム発足)は心強い」。具体的な連携ではまず情報共有を挙げる。「国や県からはさまざまは情報が寄せられる。これを整理し、活動を進める上で役立つ情報を提供していきたい」(川畑課長)。

 支援チームの活動にあたり各事業所からはこんな質問が寄せられた。「感染等が確認された利用者宅へ訪問するスタッフへの待遇についての考えは?」。介護事業所協では感染リスクに応じた「危険手当」等の創設を検討している。手当の支払いにあたっては、国や県の事業の活用などで財政的な裏付け(補助)を図るのが、民間活動を推進する地元自治体の役割だろう。