清司さんが、匠海くんにお屠蘇をふるまう
指鉄と墨壺が床の間に飾られる大工祭り
食卓を飾る吸い物や、おかずの数々
奄美市名瀬知名瀬の西加(にしか)和代さん(79)の自宅では、旧暦1月2日の日に、イザケ(方言・正月2日に行う大工の神祭り。大工は方言でセェク=西加清治著・知名瀬さんぽより)を毎年行ってきた。いつもは神棚に祀ってあるサカキ、指鉄(方言・バンジョウガネ)、墨壺(方言・シンチブ)を床の間に移し、米と塩、水とお屠蘇(とそ)の黒糖焼酎を供える。お盆に盛られているのは赤椀、黒椀、刺身、タコ味噌などで、すべて床の間に大工の神様がいるように配される。請島(瀬戸内)から嫁いできた和代さんの実家では、盛大に旧暦2日行事が行われていたとのことで、餅は旧暦1月1日の12日に用意した。
今年も西加家の長男で跡取りの清司さん(50)が4代目の跡取り予定の次男の匠海くん(15)にお屠蘇と床の間に配されたスルメ、昆布、塩を次々と手渡し、正月の儀式を執り行った。
西加家では「先祖元(方言・せんそもと)で、旧暦の2日は『男正月』と言って、女性は一切入れない行事。男だけの神様祭り」。清司さんも4男坊で跡をとった父親の繁岐さん(故人)から受け継いで神棚のサカキを枯らさないように毎日、和代さんの自宅に通い、水を代えサカキを守ってきた。これも女性は触れないものだという。
繁岐さんが仕切っていた頃は、清司さんと2人の息子の陽斗くん(18)、匠海くん4人で儀式を行ってきた。この4月に長男は鹿児島実業高校3年生に、匠海くんはラグビー推薦で鹿児島工業高校に進学するため、今年までは一人祭りせずにすむとのこと。
儀式の後は、清司さんの妻・千江美さん(47)が作った吸い物の赤椀(エビ、アカマツの焼魚、餅、ゆで卵、シイタケ、カマボコ、昆布の7種類)、黒椀は和代さん担当で、鶏が絞められる様子を見てから食べられなくなったため、大根とニンジンと鶏の代わりに豚油ロースで吸い物に。
アカマツの刺身、紫色のヒオウギ貝に入れたのはタコ味噌、赤飯
エビと赤ウルメの揚げ物、刺身の数々が次々と用意され、本格的な正月料理が食卓を飾る。
線香を立てる砂は、和代さんが、大安吉日を選んで「知名瀬の海岸で誰も踏んでない砂を頂いて、線香立てに入れる」と話す。この行事が続けられるのは「両親が笠利町節田出身の千江美さんだからこそ」と和代さんは話す。
なぜなら、「島っちゅ同志で結婚しているから、これからも大工の神祭りが続いている。でも今は内地(本土)っちゅとの結婚が増えてきて、伝えていくのが難しくなると、この行事も廃れていくかもしれないね」。
清司さんが仕事の建築請負業で留守のときは、匠海くんが神棚のサカキを守っているという。神棚だけでなく、和代さんのご主人の位牌が祀られている仏壇にも同じ食事が用意されている。こうして、代々引き継がれていく行事を目の当たりにさせてもらった旧暦1月2日の大工祭りだった。