島立ちの春

沖永良部高校を卒業する田原聡馬さん(左)と上田秋斗さん(右)

期待を胸に、それぞれの道へ 沖永良部高校3年生

 【沖永良部】高校3年生にとって島立ちの時期になった。沖永良部高校は、普通科と商業科の生徒合計91人が卒業する。そのうち9割以上が進学や就職で島を離れる。商業科3年の田原聡馬さん(18)は「ほかの年代とは違う体験ができた」とコロナ禍の1年を振り返った。

 昨年3月2日から、新型コロナウイルス感染拡大防止のため学校は24日間の臨時休業期間に入った。所属していた野球部も活動を休止、2回目の休業期間(4月26~5月10日)も合わせると1カ月以上チームでの練習ができなかった。

 「休みの期間中は自主練習に励んだ。ほかのメンバーもそれぞれでやっていた」。

 夏の甲子園出場の切符をかけた県予選に向け、モチベーションを保ち続けたが、その大会も中止。7月に行われた代替大会が最後の試合となった。「いつもと違う形でも、最後の大会があってよかった」と話す。

 部活を引退し、2学期からは受験勉強に力を入れた。実家が畜産農家で、子どもの頃から牛の世話をしてきた。その経験から自ずと県立農業大学校へ進学する道を選んだ。削蹄師や家畜人工授精師などの資格取得を目指す。

 今年に入ってからは、知り合いの畑でサトウキビの収穫作業を手伝っている。餞別として受けた取ったお金は、生活費と趣味に充てる予定だ。「車の免許を取ったので、安い車を買って釣りに行きたい」。コロナの不安より、新しい生活への期待がふくらむ。

 4月上旬に島を出発する。

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 商業科3年の上田秋斗さん(18)さんは、兵庫県尼崎市の物流会社に就職する。

 インターネットで買った商品が離島に届くまでの早さに驚き、物流業界に興味を持った。

 昨年10月、尼崎市にある本社で試験を受けた。母親の実家が同市にあり、そこに住む親戚に送り迎えを頼んだ。コロナ対策で電車には乗らなかった。面接では、沖永良部の方言を紹介し、場を和ませたという。

 母親と2人暮らし。中学2年生の時に父親を亡くした。姉2人は大阪と奈良にいる。育ててくれた沖永良部島と母親への感謝の思いは強い。

 「島を出るのはさみしい。『(母親は)島に帰ってこなくていいよ』と言ってくれるが、こっちには親の畑があるし、父親のお墓もある。いつかは戻りたい」と語った。

 就職試験の合間に、どうしても行きたい場所があった。甲子園球場だ。田原さんと同じ高校球児、3年間ともに練習に汗を流した。

 球場の周辺には全く人がいなかったが、憧れの舞台を目の前にして感動がこみ上げた。

 3月中旬、選抜高校野球が始まる頃には兵庫にいる。「とても楽しみ」と笑顔を見せた。

 沖永良部高校の卒業式は3月1日にある。