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ナイトツアーで人気のアマミノクロウサギ

 

 

ルールをつくるのは「今」
筑波大大学院・吉田正人教授インタビュー

 

■自分たちでつくったルールはうまくいく

 地元の方々にはぜひ「守り手」になってほしい。うまくいったルールは、小笠原諸島などもそうだが、自分たちで作った自主ルール。小笠原は、今は東京都と小笠原村との協定によってルールができている。たとえば南島に連れていけるのは認定ガイド1人につき15人までで、1日100人まで。これは押し付けられたのではなく、ガイドや観光関係者らがつくったルールを行政が公認したもの。ホエールウォッチングでは、あまりみんなでクジラを追いかけてしまうとクジラが見られなくなってしまうので、100㍍前くらいで船を止めてクジラが近づいてくるのを待つやり方にしよう、と自主ルールで決めていた。そういった自主ルールの伝統があり、それを世界遺産のルールにした。

 なかなかこういうところは少なく、上から押し付けようとすると、だいたい失敗してルールを変更することが多い。屋久島はあまりそれがうまくいっていない。なぜか? 世界遺産になる前に決めなかったからかもしれない。世界遺産になってしまうとどんどん観光客が増え、それで生活が成り立つ人が増えると、抑制はなかなか難しい。増えすぎてしまう前にある程度ルールをつくっておく必要がある。今が瀬戸際。世界遺産登録が目前に迫っているわけだから、今やらないと後から決めるのは非常に難しくなる。

 方法はいろいろある。小笠原は人数制限し、東京都の方がテントを張って毎日カウントしており、それ自体とても大変。それよりはガイドの人たちが1グループ15人以内、それを超えたらグループを分けるといったルールを徹底するほうが実質的。それからガイドが観光客にルールを守らせる人になるのがよい。竹富町(沖縄県)は「観光案内人条例」にして徹底した。奄美は島が大きく、住民も多いからなかなか徹底は難しいのかもしれない。でも、アマミノクロウサギを見に行くツアーは認定ガイドのみにするなどしていかないと、結局エコツアーのようなものは、あまり質はよくないけど割安でやる人が儲けてしまう、ということになりがち。真面目にきちんとした料金でやっているガイドが損をするのはよくない。だからルールを強化する必要がある。そうしないと、価格競争になってしまうから。観光協会やガイド協会が主導してルールをつくっておいたほうがいい。新型コロナウイルスをチャンスに捉えて、今がルール化する時期であると考えてほしい。
 
■世界遺産になって何がよかったか?

 世界遺産になったところを学生と一緒にインタビューして回ったことがあるが、共通して言えるのは、「世界遺産になって何がよかったか」という問いに対し、「お金が儲かるようになった」という回答は誰もいなかったということ。自然遺産は人数もそんなに増やせないし。むしろ「地域の人々が地域の自然を誇りに思うようになった」と。そして、屋久島でいえば、今でこそ屋久島は有名だが昔は知られておらず、「どこの出身?」と聞かれて「鹿児島です」としか言えなかったのが、「屋久島出身です」と堂々と言えて、「ああ、いいところなんですよね。世界遺産だよね」と言われるようになった。それまでは高校を出たら島を出て帰ってこないという状態が、仕事ができたということもあるが、子どもたちが大阪や東京に出てもまた帰ってくるようになった。それがいちばんいいことだった、ということをだいたいどの地域でも口を揃えて言っていた。
 
■島民に伝えたいこと

 地域の人たちが世界遺産の「守り手」になるのがいちばんいいので、島の自然の大切さを知ってほしい。

 それから、世界遺産はどうしてもたくさんある価値のうち、世界一の価値を見つける作業。だから、アマミノクロウサギを始めとした生物多様性に注目し、登録に向かっているが、実は奄美・沖縄の価値はそれだけではなくて、その他にも食文化や染めもの、お祭りなど、無形文化遺産も含めたいろんな価値がある。これらトータルで島であり、「シマ遺産」という言葉があるが、シマ遺産があってこそ世界遺産があるわけなので、もともとのシマ遺産の価値をぜひもう一度見直していくことが大事。世界遺産はもちろん「世界から見たら、これが価値」と言われるかもしれないが、それだけに注目して、もともとあったシマ遺産を忘れてはいけない。白神山地が登録されたときに、世界遺産になった途端にそれだけが大事になってしまって、極端な例で言えば、ミズナラの森を伐採してブナの木を植える、といったことが起こった。ミズナラとブナはセットでひとつの森なのに、そういうことをした地域もある。そういうことにならないように、「普通のもの、普通の文化の価値」の中で、今が育まれていることを忘れないでいただきたい。