可能かシンボルとの共存

大海さんの果樹園ではアマミノクロウサギとの共存を探る方法が試みられている

樹皮かじられる食害拡大
「武者返し」防護柵 導入など対策試み

 「昨年から瀬戸内町阿木名の奥(山の上)にある果樹園でも被害が出ている。最近では2~3カ月前に奄美市住用町役勝、さらに名瀬地区の小湊安木屋場でも農家2人から被害報告を受けた。生息が確認されていない笠利町以外の奄美大島の果樹園で出没するのではないか」

 奄美で最も高い湯湾岳(標高694㍍)の麓に広がる丘陵地・大和村の福元盆地でタンカン栽培に取り組む果樹農家、大海昌平さん=JAあまみ大島事業本部果樹部会長=は語った。タンカンの樹皮をかじり、成長をストップ(樹勢低下)させるという食害を与えているのは国の特別天然記念物アマミノクロウサギだ。「クロウサギの生息地に果樹園があるようなもの」とされる福元地区。大海さんの果樹園の場合、入植の翌年(2013年)から被害が出るようになり、鹿児島大国際島嶼教育研究センター奄美分室が大海さんの果樹園に設置した自動撮影カメラの画像によりクロウサギによるタンカン食害が明るみになった。

 被害拡大について大海さんは「クロウサギの生息数が増えたというよりも、マングース駆除などにより元に戻った(生息の回復)ため」とみる。食害の時期も11~3月の冬場にかけてだったものが、今年に入ってからはタンカンの「新芽が動く」春先、さらに6~7月にも出ているという。通年になるのも時間の問題かもしれない。

 なぜタンカン園で食害が拡大するのだろう。「成木だけでなく苗木、葉、さらに果樹園を取り囲む防風樹の被害も出ている。親が餌として認識することで子どもも食べている。一方でかじられない場所(果樹園)もある。分からないことが多いが、山間部を中心に造成されたタンカン園は管理作業によって太陽の日差しが園内に届き、肥料が施され、草もあることから、クロウサギにとって”餌場”のようなものではないか。また造成地のため土が軟らかく巣穴を作りやすいのも生息しやすい環境となっているのでは」。鹿大の研究者らとともにクロウサギの果樹園での生態を見続けてきた大海さんは指摘する。

 果樹園に植栽した樹木のほとんどを植え替えなければならない事態など深刻化する食害。しかしイノシシなどのような害獣として駆除することは不可能だ。奄美・沖縄は国内5件目の世界自然遺産として、26日に登録される見通しだが、世界中で奄美大島と徳之島のみに生息するアマミノクロウサギは、両島の希少種の頂点に立ち、奄美の自然のシンボルと言える存在だ。果樹農業と、生息するクロウサギが共存できる方策を探らなければならない。

 大海さんの果樹園ではさまざまな方法が試みられている。その一つが「行灯=あんどん=」。苗木を食害から守る方法で、高さ70㌢ほどの支柱を立て透明のビニールを張り巡らす。透明にするのは日光を取り込むため。風対策にもなり成長が早いという。食害防止だけでなく複数の利点があるが、難点は経費だ。支柱代、ビニール代が掛かり、一つの苗木を守るのに約600円要する。大規模農家の大海さんは今年550本植えるが、単純計算で33万円も費用が掛かることになる。また、「行灯」方法も有効なのは植栽当初であり、2年目3年目と樹木が成長すると使えない。

 根本的な対策方法はイノシシ同様、果樹園内に入り込めないようにする方法だろう。侵入を防ぐため園周囲に張り巡らされた防護柵の活用が検討されている。ウサギ用の改良方法としてフェンスに取り入れたのが「武者返し」だ。勾配を効かせた反り返しであり、熊本城の石垣での取り入れが有名。大海さんは専門家の協力を得ながら試験に乗り出しており、反り返しによりクロウサギが柵をよじ登って侵入することができなければイノシシ兼用で活用できる。防護柵一つ一つに「武者返し」を施すのはかなりの手間がかかるが、効果によって共存へと近づく。

 世界遺産登録は島の産物を島外に売り込むのに、かなりの追い風となる。果樹園で生産されるタンカンも効果的な対策が確立できたらクロウサギとの共存をアピールできる。ただし「利用を逃げ道」にしてはならない。「奄美のシンボルとの共存と同時に、安定した品質が大事。品質が悪いのに世界遺産を売り込むことで販路を得ようとしても一過性に終わるのではないか。やはり品質保証が可能な光センサー付き選果機を使用し、販売に乗り出すのが産地の責任では」(大海さん)。クロウサギとの共存、安定した品質という取り組みによってこそ世界自然遺産は果樹農業を飛躍させるだろう。

 (徳島一蔵)