農作業中の事故で右腕失う

事故が起きたサトウキビ畑の前に立つ西文男さん=知名町正名=

「命があってよかった」
知名町の西文男さん 議員活動思いさらに強く

 【沖永良部】今年3月、農作業中の事故で右腕を失った知名町議会議員の西文男さん(58)。事故から3カ月後、同町議会6月定例会一般質問の冒頭で事故内容と自分の負ったけがを報告し、事故のない町の実現を町民に呼び掛けた。西さんに事故発生時の状況や現在の生活について聞いた。

 3月19日午後2時ごろ、同町正名のほ場でサトウキビの調苗作業中だった。切り倒したキビを機械に通して苗を切断していると、右手の指先が刃に触れた感覚があった。「いま引き抜けば大丈夫」。機械の方に目を向けたが、すでに右腕がなくなっていた。一緒に作業をしていた男性が事故に気付き119番通報し、近くのほ場で同じ作業をしていた親戚らに助けを求めた。

 キビのハカマの上で横になり、患部を心臓より高い位置に保ったまま、救急車が来るのを待った。その間に、助けに来てくれた人らが、タオル2枚と女性用のスカーフ1枚の合計3枚を使って傷口を縛り、止血した。

 けがをした腕を心臓より高く上げたのは、「挙上(きょじょう)」と呼ばれる出血を抑えるための応急処置法の一つ。議員になる前、建設会社に勤務していた頃に受講した安全講習会のことを思い出し、とっさに動いたという。

 ドクターヘリで搬送され、事故が起きてから3時間半後には沖縄県の病院に到着。「腕の接合は難しいかもしれない」と、医者の言葉を伝えた家族に対し、激痛に耐えながらうなずいて返事をした。2回の手術を行い、約3週間入院した。

 島に帰って来てからは、利き腕ではない左手で字を書く練習を始めた。片手では、ペットボトルのキャップを開けられないことやシャツのボタンの留め外しが難しいことに気付いた。着替えも、いままでの数倍の時間がかかる。「このような状況になって初めてわかった。本当に不便」と話した。

 農林水産省によると、2019年に農作業中に亡くなった人は全国で281人、要因の66%が機械による事故だった。就業者10万人あたりの死者数は16・7人で、建設業の5・4人、全産業平均の1・3人を上回っている。

 島内で発生した農作業機械による事故件数は、沖永良部与論地区広域事務組合消防本部によると、16年から今年7月31日までに、18件(和泊町6件、知名町12件)で、そのうち死亡事故は16年と18年に1件ずつ起きている。

 農繁期には防災無線などで連日、事故防止を呼び掛けているが、毎年1件以上の事故が発生している。今年に入ってからは、死亡事故はないものの、すでに7件の事故が起き、この5年間で最も多い状況となっている。

 事故の状況を振り返った西さんは「事故直前は、疲れを感じていたし、もう少しで作業が終わるという油断もあった。もし、意識を失っていたらと思うと怖い。命があっただけでもよかった」と話す。16年に初当選して現在2期目。町議会では、障がい者支援や医療費問題など、町民福祉について多くの一般質問をしてきた。今回の件で、議員活動に対する思いをさらに強くしている。

 「事故で負けるわけにはいかない。町民に私と同じ経験をさせたくない」と力を込めた。
 (逆瀬川弘次)