知名町長選挙振り返る

遊説中に町民と言葉を交わす今井力夫氏=11月30日、知名町住吉=

12年ぶりの無投票当選 実行力で信任
脱炭素化など政策手腕に真価

【沖永良部】任期満了に伴う知名町長選挙は30日告示され、現職の今井力夫氏(64)以外に立候補の届け出がなく、今井氏が無投票で再選を決めた。1期目は子育て支援を中心に各施策に力を注ぎ、将来の町の在り方としてゼロカーボンシティ構想を打ち出した。昨年からコロナ対策に追われたが、今井氏の実行力が有権者の信任を得た。

今井氏は町議会3月定例会で「1期目に行った施策のほとんどが道半ばの状況」と述べ、立候補を表明。「子や孫が誇れる持続可能なまちづくり」をスローガンに▽生活環境の整備▽子育て支援▽農水産業や観光商工業の活性化▽ゼロカーボンシティ構想―などの公約を掲げた。11月12日に事務所開きを行い、町議11人が支持した。
 
◇脱炭素化
 

今井氏の公約は、4年前の初当選時とほぼ変わらないが、新たに加えたのが「ゼロカーボンシティ構想」だ。昨年9月に「気候非常事態宣言」を発表し、庁舎内でのプラスチック製品の使用削減やフローラルパーク内で風力発電の実証実験に取り組んでいる。今年9月には、小さなコミュニティーでエネルギーを地産地消する「マイクログリッド」の構築を進めるため民間企業と協定を締結。さらに、来年から工事が始まる新庁舎は、再生可能エネルギーの活用や省エネを図る「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)化」を目指すことを表明した。

出陣式で今井氏は「これから『環境』という言葉がキーワードになる。ゼロカーボンシティ構想は、二酸化炭素を出さないという意味だけではなく、様々なところに波及してくる」と訴えた。
 
 ◇課題
 
当選後、これからの課題について今井氏は「1期目の仕事が完結していない。水道水の硬度低減化は道半ば。安心安全な町をつくるために、防災機能を持った役場が必要となるが、それもまだスタートしたばかり」と話した。

新庁舎建設は、総事業費約19億円を見込んでいるが、当初の建設候補地の地質調査をした結果、基礎工事だけで約2億8千万円の費用がかかることが判明し、建設場所の変更を余儀なくされた。それに伴い建設スケジュールも半年ほど後ろにずれ込んだ。来年夏ごろまでには庁舎本体の工事を開始する予定だが、価格の高騰が続いている資材や原油高による輸送コスト増の影響で、スケジュールのさらなる変更や予算が膨らむ可能性がある。

町にとって長年の懸案事項だった水道水の硬度低減化については、昨年11月に見つかった水源2カ所を一つに集約し、そこに硬度低減化施設を建設する計画が進んでいる。事業費は約23億円を見込んでいる。

遊説の中で今井氏は「町民が安心しておいしい水が飲めるよう、2期目でどうにかしたい」と力を込め、水道事業への国の支援拡充や奄振予算の活用を関係機関に働きかけていくことを誓った。
 
 ◇町民の期待
 
後援会長の森山進氏は「4年前は認知度がなかったが、言葉の力で初当選した。いまは言葉の力と実行力で町民の信頼を得ている。新しい仲間も増えた」と話す。

後援会幹部の70代男性も「脱炭素は日常生活に関わってくるが、理解が追いつかない人も多い。それを一つ一つ説明できるのがすごい」と評価した。今井氏の発言は島内外で注目されている。

「農業の島であり、環境にも配慮した島」を理想に掲げる今井氏。さらに「高い理想を実現すれば、子や孫が誇れる町になる」と意気込みを語った。大型公共事業が進む中で財政にも配慮しながら、子育て支援や農業振興などの公約をどれだけ実現できるか、真価が問われる2期目となる。
 (逆瀬川弘次)