大島紬の柄、見本帳に

本場奄美大島紬柄見本帳『紬おかげ』を手に西さん

田畑正喜さんが手掛けた反物や図案が数多く掲載された見本帳

大正・昭和期280点収録
西さん(名瀬)上梓 多様な紬「次世代へ」

 奄美市名瀬の西正代さん(69)は、大正・昭和期に織られた大島紬の貴重な柄や図案を次世代に残そうと本場奄美大島紬柄見本帳『紬おかげ』を上梓した。父で織元の故・田畑正喜さんの技術やアイデアが込められた反物や柄見本千点から約280点を収めた。西さんは「みんなが希望と活気にあふれ、夢中になった時代の作品。多種多様な紬を記憶として残したかった」と思いを込める。

 龍郷町出身の田畑さんは、南興産業㈱などを経て1967年に独立して正喜織物を設立。2014年に84歳で亡くなるまでに、県知事賞など数多くの賞を受賞。その傑出した創作力や技法は、全国でも抜き出ていた。

 西さんは、田畑家三姉妹の長女。慕われる田畑さんの周りには大勢の職人が毎日のように集まり、自身でも図案を学ぶなど、幼いころから紬の中で育ってきた。

 思い立ったのは、亡くなってすぐ。紬は保存も難しく「一筋の糸でつないできた熟練の技術を失くしてはならない」と思い、本にまとめようと決意した。

 そこからは、時代の面影を追うように多くの職人を取材した。色に厳しかった田畑さんの意思にそぐわないよう、印刷工場には何度も出向いて刷り上がりを確認した。構想7年・製作2年。自費出版に至った。

 見本帳では、絣が複雑で熟練の技術が必要とされる「割り込み式」で織られた柄も数多く紹介した。奄美の花やチョウをモチーフにしたデザインだけでなく、テーチ木や藍、緑やピンクなどの色彩を見せることにもこだわった。加工、締機、染織の製造工程、絣配列や用語といった解説も当時に使われた島口で収録。田畑さんが「世界の織物で一番緻密」と称した大正時代の復元柄なども収めた。

 見本帳は資料としての価値も高く、南興産業時代の職人からは「懐かしい」「歴史が垣間見える」といった反響も聞こえてくる。

 西さんは「過去の父と対話するように作ってきた本で、知らなかった歴史も見えてくる」と感謝。「世に出ることで、少しでも後世に役立ててほしい」と話している。

 A4変型判、オールカラー106㌻、価格は3850円。問い合わせは(西さん)電話090―5085―6516、FAX0997―53―5502。奄美市名瀬の楠田書店やツタヤ、あまみ庵、アマゾンでも買える。