センバツを考える

九州大会4強入り=センバツ確定ではないことを聖隷クリストファーの落選で思い知らされた

求められる選考基準明確化
公明公正さの実現を

 昨秋の九州地区高校野球大会で大島が興南(沖縄)に勝って4強入りした際、筆者は一面の記事で「センバツへ大きく前進した」と書いた。同じ記事が「ヤフーニュース」にも掲載されたが、コメント欄で「センバツ、確定なのでは?」と指摘された。

 秋の地区大会は翌春の選抜高校野球大会(センバツ)のあくまでも「参考資料」であり、翌年1月の選考委員会まで正式な決定はない。ただ4枠ある九州地区はベスト4に入ったチームが過去の大会ではほぼ選ばれており、その慣例から「4強入りすればセンバツに出られる」と思っている人が多いのだろう。

 実際、昨秋の九州大会では4強入りした時点で、出場決定を前提に話を聞く報道陣も多かった。4強入りしたばかりでなく、決勝まで勝ち進んで準優勝となったことで、大島はほぼ確実に選ばれるだろうとは思ったが、紙面上の表現は「出場が有力視されている」に止めた。

 今年1月の選考委員会で大島はめでたく一般枠での出場を決めた。しかし、東海地区では2枠の出場校に対して、準優勝の聖隷クリストファー(静岡)が落選し、ベスト4の大垣日大(岐阜)が選ばれるという不可解な選考があった。

 優勝した日大三島も同じ静岡であり、静岡2校選出という地域的な偏りを避けたのかと邪推したが選考委員会は「地域性は関係ない」という。レギュラーバッテリーを故障で欠いた聖隷は「頭とハートを使う高校生らしい」、大垣日大は「個人の力量で勝る」。賛否が分かれたが「投打で勝る大垣日大を推薦校とした」という。「地域性」ではなく「甲子園で勝つ可能性を公平かつ客観的に議論した」とも。

 なぜ東海大会決勝で日大三島(静岡)に3―6だった聖隷ではなく、同準決勝で日大三島に5―10で敗れた大垣日大(岐阜)が選ばれたのか? 「個人の力量で勝る」「勝つ可能性が高い」という理由に何ら客観的な根拠が示されないことに多くの批判が集まった。

 メジャーリーガーのダルビッシュ投手ら著名人がSNSなどで疑義を呈し、聖隷の地元・浜松市の市長や静岡県知事、文部科学大臣までが意見を述べるところまで影響が広がった。聖隷は野球部OB会が「33校目の代表校に」と署名活動を行った。

 にもかかわらず主催である日本高野連は「詳細な内容は公開になじまない」「野球に関して見識の深い選考委員を委嘱し、選考基準に則り、選考委員会で厳正かつ慎重に審議し決定」したので今回の決定が最終のものであると幕引きを図った。

 厳正で慎重に審議し、決定が公明正大なものであると胸を張って言えるなら、堂々と公開すべきではないのか? センバツは高野連と共に毎日新聞も主催に名を連ねる。日頃、政治家や行政などの不祥事追求に、詳細な説明責任を求めるマスメディアが、自社の関わることに及び腰では筋が通らない。

 センバツの在り方を改めて考えさせられた。戦後、高校野球が再開される際、GHQから「春と夏、二つの全国大会はいらないのでは?」と存続の意義を問われた際、当時の高野連や主催の毎日新聞は「センバツは招待試合」と夏との差別化をアピールして存続を図ったという歴史がある。

 高野連の示す大会要項の「出場校選考基準」には五つの項目が書かれている。要約すれば新チーム結成後の秋の試合の結果、内容などを勘案し「校風、品位、技能とも高校野球にふさわしいもので、各都道府県高校野球連盟から推薦された候補校の中から地域的な面も加味して選出する」と記してある。「本大会はあくまで予選をもたないことを特色とする。従って秋の地区大会は一つの参考資料であって本大会の予選ではない」と最後の5番目に明記している。

 この基準に照らせば、今回の東海地区に関する選考委員会の決定に間違いがあるわけではない。ただ選考委員の「主観」に大きく左右される部分があり、多くの人が納得できる客観的な根拠を明示できないことが、問題の根源にある。同じような問題が今後も繰り返される可能性を大いに秘めている。

 3月には高校野球以外の競技でも「全国選抜大会」が開かれるが、どの競技も予選の戦績に基づく明確な出場基準がある。

 例えばソフトボールは男女とも県新人戦の優勝チームであり、ラグビーや卓球の団体戦などは九州大会などの地区大会で、予選リーグ、決勝トーナメント、順位決定戦などを経て出場校が決まる。

 野球も地区大会を「予選」と明確に位置付けるべきではないか。今回のような問題を起こさないために、一般枠に関しては地区大会の戦績で出場権を得る形が最もシンプルな解決策と考える。

 例年、選考でもめるのが近畿の6枠だが、準々決勝敗退の4校で代表決定戦をすればクリアになる。「勝敗のみにこだわらない」センバツの伝統は「21世紀枠」で引き継ぐ。

 センバツの伝統は理解できたが、今更存続を目指してGHQに忖度するという話でもあるまい。スポーツの大事な要素である公明公正さを実現するためにも「改めるにはばかるなかれ」の姿勢が必要だろう。何より今回の件のような不明朗さがまかり通ってしまうことが、近年著しい野球人気の低迷にも拍車をかけてしまっていないか、危惧している。(政純一郎)