奄美発 国政を問う(22参院選㊥)

とどまらない物価高に、スーパーの商品価格は日々上昇を続けている
 
コロナ禍・物価高
企業努力「限界」、長期化見据えた対策を

「長期化は避けられない。政府は長く維持するための政策を打ってほしい。物価高で苦しむのは、消費者と向き合う我々のような業者だ」

天城町の老舗商店「SHOPかんだ」の代表取締役で天城町商工会会長を務める神田浩生さん(61)は声を落とす。取り扱う商品は食料品や弁当、酒や日用品など数知れず。「値上がりしていない商品を探す方が難しいくらい。企業努力だけでは限界で、価格に転嫁せざるを得ない状況。心苦しい思いはある」と話す。

調味料を始め、値上げの対象になる食用油や菓子の仕入れ価格は7月から約5~10%上昇。輸送費の高騰が輪をかけカボチャやタケノコなどの野菜も20~30%上がった。ただ、店で作る一部の弁当や惣菜は、価格を据え置いた。「すべてが値上げでは明るくなれない。せめてもの企業努力」と話す。

商品管理はQRコードで行い、印紙税節約のため従来の集金から銀行振り込みなどにも変えてコストを切り詰めた。商工会では苦しむ業者を支えようと、マルシェや花火、祭りとイベントを率先して仕掛けた。時には「客が泣くなら町が泣いてくれ」と、町には独自の補助金などの協力も仰いできた。

神田さんは「天城町ではコロナ以降に倒産した企業はない。率先してくれた町のお陰だ」と感謝。「天城町は農業の町でもあり、JAなど各機関とも連携を密にしながら、これからも取り組んでいかなければならない」と話す。

ただ参院選では、燃油価格の抑制や労使交渉による賃上げ、消費税減税など、消費者に寄り添う公約が目につく。「安定した生活は働く場があってこそ。今後5年、10年見据え、本当に困った時にはしっかり支えてくれるような持続可能な政策を願いたい」と求める。

長期化するコロナ禍や物価高はさまざまな業態にも飛び火するが、そんな中でも新たな試みで閉塞感を打破しようと取り組む経営者もいる。

天城町の特定建設業㈱須川木工は、同町で簡易宿泊所「ハウステル・レッドイン」を運営。昨年からはホテルの厨房を一部改装し、高齢者対象の配食サービス「宅食ライフ」を始めるなど、経営を多角化している。

背景には、長年抱える建設業の担い手の減少と高齢化への危機感があった。当時、建設業の人材確保を阻んでいたのが、根強い「3K」のイメージ。コロナ禍がひっ迫する状況に拍車を掛けた。須川木工専務で宅食ライフ代表の順直輝さん(49)は「島の建設業は仕事の波が大きい。従業員や職人が安心して働ける場の確保が急務だった」と話す。

総務省によると、20年の建設業の就業者は492万人と、1997年のピーク時から3割減った。内訳では、55歳以上が36%を占める一方、29歳以下は11・8%。この偏りを放置すると、近い将来に深刻な人手不足に陥る恐れがあった。

コロナ禍では建設技術を生かし、商標登録する抗ウイルス・抗菌塗装の「ダイヤシールド」を先駆けて開発。ホテルでは部屋などを除菌する抗菌ライトも併せて設置し、利用者への安心感を醸成した。だが、コロナ禍では海外の住宅注文の急増で輸入資材が高騰した。順さんは「資材の高騰は(目先の利益に捉われた)価格競争を生みかねない。不安定な経営では職人の確保もできず先行きが見えなくなる」と不安視する。

業界で急がれるのは、職人など人材育成への補助。「農業などは器具や肥料の購入、人材育成といった補助が多いが、建設業にはそういったものがまったくない。島は特に人材不足が顕著で、職人の奪い合いが起きている。(経営の土台を築くため)職人が安心して育てられる環境づくりが最優先だ」と訴える。

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厳しい声が相次ぐのは、長引くコロナ禍や物価上昇が経営に打撃を与えているためだ。原油や輸送費の高騰に伴い、島でもさまざまな価格が上昇している。所得向上や働き方改革も迫られるなか、企業や事業者は厳しさを増している。コロナ禍がピークを過ぎ、経済回復が見えると思った矢先である。

総務省が発表した5月の物価上昇率は前年同月比2・5%。資源高などが続き2カ月連続で2%を超えた。必需品ほど高騰は鮮明で、ガソリンや食品などの上昇率は5・0%と跳ね上がった。

今回の参院選では、個人への負担軽減に政策は向きがちだが、消費者と事業者支援の両立は可能なのだろうか。長期化すれば、対策は繰り返し必要になる。OECDも「対象を絞らない支援策は財政コストが高く、数カ月以上継続すべきではない」と警鐘を鳴らす。物価高をあらゆる観点から検証し、長期化を見据えた対策を示すことが重要だ。参院選をにらんだ一過性であってはならない。