UD視点で高齢化社会考える

ディスカッションでは自治体関係者や専門家ら10人が議論を繰り広げた

住み慣れた暮らしへ
自治体・専門家らが基調報告や提言、ディスカッション
奄美市でシンポ

 ユニバーサルデザイン(UD)視点で、高齢者の住み慣れた環境を変えない暮らし方を考えるシンポジウム「UDコミュニティセミナー2022」(同実行委員会など主催)が10日、奄美市名瀬の市民交流センターであった。移住や定住、高齢者福祉に取り組む自治体関係者の基調報告や専門家の提言を基にパネラーたちが議論。文化を生かしたケアの可能性や、ライフヒストリー(個人史)ある住居づくりの必要性などが指摘された。

 世界自然遺産登録に伴う移住者が奄美大島でも増えるなか、将来の高齢化社会を見据えた新たなコミュニティ、街づくりを共に考えようと企画。移住者や地元住民が高齢者になった時、住み慣れた環境で暮らし続けるためには何が必要なのか、行政や専門家ら10人が登壇し、基調報告や提言、ディスカッションを通して考えた。

 基調報告では、奄美市、龍郷町、大和村、瀬戸内町から4人が登壇し、定住施策や高齢者福祉など各市町村の現状や取り組みが報告された。伊集院幼大和村長は、長年取り組む〝住民が主体となった活動による地域づくり〟を紹介し「住民が自ら考え我々はそれをサポートする。地域ができることこそ持続可能な取り組みだ」と強調。瀬戸内町地域包括支援センターの古川沙津希さんは、有人離島を抱えるなど同町における交通の不利性などを説明した上で「高齢者の95%が自宅生活している。(拠点整備や住民による支え合いの構築については)自宅を街と捉えて暮らすという考え方が必要だ」と訴えた。

 提言では、社会福祉法人三環舎の向真由美さんが地域で自立した生活を送る手段として「グループホームなど少人数居住形態のニーズが高まっている」と述べ、㈱重信設計の重信千代乃さんは「島の建築は豊かな海や森が根幹にあり、文化や交流を意識した設計がなされている」と指摘。大和大学理工学部講師の老田智美さんはデンマークの高齢者施設などを例に「子どものころから本が好きな人は認知症になっても本のある環境が落ち着く。高齢者の終の棲家はその人の歴史、ライフヒストリーを重視したデザインが求められている」などと提言した。

 ディスカッションではオープニングでシマ唄を披露した唄者の前山真吾さんらも加わり10人で、文化や自然の大切さを前提に住み慣れた環境について議論した。主催者で島根大学客員教授の田中直人実行委員長は「UDは人の多様性を無視せず違いの中に魅力をつくることが原点。それぞれの分野が力を合わせることが大事だ」と総括し、最後は六調を踊ってセミナーを締めくくった。