支援策に足並みを

肥料や飼料価格高騰の生産コスト増に、子牛価格相場の下落が追い打ちを掛けている=16日、徳之島町大原

肥料・飼料高騰に子牛相場下落
〝奄美のウクライナ〟の場合

 「イノシシなどの鳥獣害や台風被害も少なく、コロナ禍で価格低迷もなかった中での農業資材の高騰。農家は生産コスト増で大きな打撃を受け、なかには経営の縮小や離農を考える農家も」とは、先の徳之島町議会定例会での主管課長の答弁だ。

 その〝憂い〟のさ中の7日、JAあまみ徳之島中央家畜市場(天城町)であった黒毛和牛子牛の9月セリ。同地区の1頭当たり平均単価は「48万8751円」(税抜き)。50万円台を底割れして、8年前の40万円台に戻ったことへの落胆が広がっていた。

 海外原料に依存する化学肥料は「約2倍」、飼料も「約1・5倍」に高騰した中での〝三重苦〟。「農業の島」を底支えしてきた生産農家たちの死活問題となる障害がじわり再来。国(農水省)や県も支援策を打ち出しつつあるが、地元行政や関連団体も足並みをそろえた迅速な支援が必要だ。

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 農業資材価格高騰の背景は、周知の通り長引くコロナ禍、ロシアのウクライナ侵略、急激な円高などが複合的に絡んでいる。余談になるが、国営農地開発事業徳之島地区(1985年度~00年度完工・受益面積674㌶・事業費277億9200万円)の計画段階のキャッチフレーズは「奄美のウクライナ」化だった。

 「世界の食糧庫」的、日本の食料自給率や地域農家所得の向上、地域振興を標ぼうした。今や世界中が胸を痛めている理不尽なプーチン侵略戦争の影響が、皮肉にも経済打撃の流れ弾となって〝奄美のウクライナ〟にも及んでいる。

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 年間平均6千~8千頭(総売上額40~50億円)の徳之島産出の子牛セリ市を担うJAあまみ徳之島中央家畜市場。ちなみに過去8年間の平均単価は、▽2013年43万6千円▽14年49万4千円▽15年56万9千円▽16年71万2千円▽17年71万3千円▽18年70万2千円▽19年67万8千円▽20年60万2千円▽21年64万9千円―で推移(同JA徳之島事業本部畜産課)した。

 それが今年8月セリでは53万8532円(7月比3万6956円安)、直近相場(7日)はついに生産農家が「暴落」と評する48万8751円(8月比4万9781円安)。50万円台底割れ下落トレンドの背景には、コロナ禍に飼料高騰・コスト高の直撃を受ける肉用牛肥育農家(購買者)サイドの苦境がある。

 徳之島市場常連の購買者の一つ、㈲うしの中山(鹿屋市串良町、約4900頭肥育)。第16回全日本枝肉コンクール最優秀賞や第44回系統和牛枝肉共励会チャンピオン・農水大臣賞・金賞。来月6日開幕する第12回全国和牛能力共進会には第8区(去勢肥育牛)の本県代表でもある。

 同社および㈱nixy企画販売部門の荒木真貴専務(44)は取材に「長引くコロナ禍での外食産業・牛肉消費量の落ち込み。そしてウクライナ情勢や円安による飼料の高騰・高止まりは厳しい」と吐露。買い支える同島産子牛には、三重苦の中にあっても「伸びしろがあり、枝肉になっても資質・肉質ともに上物(A5)が出やすい」とエールを送る。

 徳之島町内の肉用牛繁殖経営法人(18日現在330頭+子牛210頭飼養)。管理スタッフリーダーの杉山翔一さん(23)によると、繁殖牛1頭の1日当たり飼養コストは約500円。自給粗飼料(牧草)生産には肥料も不可欠。「それでも自給率は約50%と足りず、高い外国産(乾草)に頼らざるを得ないのが実情」。そして「暴落は我慢のとき。農業に関心を抱く若者は増えている。希望の持てる支援は必要」と訴える。

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 国(農水省)は肥料価格高騰の影響緩和に、化学肥料低減を二つ以上取り組む農業グループ(5戸以上)を対象に「秋肥」(5月~10月)購入分に遡って前年度からの価格上昇分の「7割」を補てん支援する。県も15%支援策を打ち出した。JA県経済連は主要肥料5品目の一律助成を実施する。

 一方で、国施策は「協議会設置など条件がややこしく回りくどい」との指摘もある。申請手続き事務処理など支援主管の明確化(一般的にはJA系が多い)。地元3町行政による「残る15%」の支援など、今こそ足並みをそろえた迅速な対策が求められる。

(米良重則)