鹿児島県のトップを選ぶ県知事選挙がスタートした。北は長島町から南は与論島まで南北約600㌔(鹿児島市から大阪市までの直線距離とほぼ同じ)と県内全域を対象とする選挙だ。立候補している3人の候補者全員が県都・鹿児島市で出陣式し第一声を上げ、選挙期間中に候補者本人が奄美群島入りする機会は限定的だけに、知事選は居住自治体のトップを選ぶ市町村長選に比べ「身近ではない。誰がなっても関係がない。選挙への関心は薄い」という声を聞く。
身近さ、これは選挙区域が広範囲ということもあり市町村長選に比べて否めない。だが、関係性は異なる。奄美の基盤に深く関わるのが県政だ。港湾や道路といったインフラ整備だけでなく、交付金による航空運賃の助成など群島民の暮らしに直結する奄美群島振興開発事業で考えてみよう。
奄振事業の法的根拠となるのが奄振法(奄美群島振興開発特別措置法)だ。法の一部を改正する法律案(改正奄振法案)が3月29日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。今回で14回目の延長となった改正奄振法の期限は2028年度末までの5年間。改正法では目的規定に「移住の促進」が追加され、法の基本理念には沖縄との連携を明記している。この改正法の施行を受けて、奄振予算を所管する国土交通省は5月24日、新たな奄振基本方針を策定した。国が打ち出した基本方針、次のステージとして奄美群島で進められる事業を示すのが新たな奄振計画だ。これを担うのが県であり、基本方針に基づく計画案は主務大臣協議を経て策定され、今月中にも公表される見通し。
県が新たな計画に盛り込む事業により「5年間の奄美の姿」が明確になる。これが出発点とすれば、そこに至るまでアシストしたのが、県が実施した奄美群島振興開発総合調査ではないか。改正するまでの法律が期限を迎えたのが23年度末(24年3月31日)。これを前に県は22年度、奄美群島の社会・経済の現状、課題及び奄振事業の成果などを総合的に調査。それによって今後の振興開発の方向・方策を明らかにした。
調査結果は報告書として23年3月末に公表された。振り返ってみよう。振興開発に向けた方策として挙げたのが、▽定住促進へ産業振興や移住・交流の促進▽世界自然遺産登録などを契機とした自然環境の保全と利用の両立・文化継承▽農業や観光、ものづくりの「稼ぐ力」の向上―など。交付金については対象の追加・拡充として、▽教育及び文化の振興▽農業の振興▽デジタル技術などを活用した地域課題の解決▽移住及び定住等の促進▽自然環境の保全及び再生―に関する事業、農林水産物等の輸送コスト支援事業では「沖縄島への農林水産物等にかかわる移出の追加、畜産物など品目の追加等の制度拡充」、航路・航空路の運賃軽減事業では「奄美群島―沖縄路線の追加等の制度拡充」が示された。
報告書は法延長の理論付けとなったが、方向・方策のほとんどが改正奄振法に反映されている。県は奄美群島12市町村や民間有識者、各種団体の意向調査、奄美出身者組織との意見交換会、群島住民・事業所へのアンケート、パブリックコメント(意見公募)などを実施し報告書を取りまとめており、県の主導によって出身者を含む群島民の創意が形になったと言えないか。
奄振事業でみても県政の影響力が認識できる。影響力がある県政のリーダーが知事だ。それだけに今回の知事選は決して「奄美とは関係ない選挙」ではない。選択の材料として紙面でも伝えている各候補者の公約(政策)のほか、県選管が市町村選管を通して県内全世帯に配布する選挙公報(県ホームページでも閲覧可能)でも候補者が掲げる政策を把握できる。奄美に関わる選挙との認識で関心を持ち、一票を投じよう。前回、前々回と現職の落選が続く中で今回は継続により安定を選択するか、それとも再び刷新を選択するか。私たちの投票はこれからの県政を決める。
(徳島一蔵)