国天然記念物・オカヤドカリの大群

オカヤドカリの大群による種の保存・生命誕生のドラマ=1日午後11時頃、徳之島町金見崎海岸


ひと際目立つ「ムラサキオカヤドカリ」(体長5、6㌢)の姿も

種保存・生命誕生のドラマ
徳之島町金見崎 夏本番への風物詩

 【徳之島】徳之島町東北端に位置する金見崎(かなみざき)海岸では、国指定天然記念物「オカヤドカリ」たちの生命誕生のドラマが始まっている。熱帯夜の海辺で潮騒のメロディーとともに「ザワザワ、カチカチ…」。悠久の自然界の摂理とリズムに沿って密かに繰り広げられる同海岸の名物だ。夏本番への風物詩ともなっている。

 金見崎海岸は、奄美群島国立公園の第3種特別地域。〝一斉産卵〟行動が見学しやすいのは同海岸の通称・真崎(まさき)浜エリア。河川がないため生活排水や赤土汚染にもほぼ無縁。冬季を中心とした外国産漂着ごみが唯一の悩みだが、「世界自然遺産の島」の海岸部の大自然を象徴する自慢のエリアの一つ。

 現地を訪れたのは、夜の満潮に向かう1日午後11時頃のこと。既に白い砂浜や岩場の一部はオカヤドカリの群れが覆っていた。例年、最大の密集状況の観察ポイントとなる一角は、潮流や波浪の影響か再び岩場と化していたが、個体数はほぼ例年通りか。互いの宿貝(貝殻)を「ザワザワ、カチカチ」と接触させ、密集・密接状態でじゃれ合っているかのようだった。

 観察タイミングによっては例年、陸(おか)のアダン林などをはい出たヤドカリたちは、潮だまりに達すると、海水に浸って体を揺らしてポンピングしながら「ゾエア」幼生を放出。赤紫色の無数の幼生(1~2㍉)が小エビやボウフラ状に泳ぐ姿が肉眼でも確認できる。

 保護・監視を続けている金見集落住民の一人・寿山秋男さん(81)は「(自然サイクルで)砂が移動して足元は悪くなったが、多くの子どもたちも観察に来て、自然を大切にする心も育んでほしい。群れの数は、晴れて風波が穏やかな熱帯夜が特に多い。臆病者のため、近づき過ぎたり、大声を出したりせず静かに観察を」と話していた。