徳之島 無安打リレーでコールド勝ち

【1回戦・吹上―徳之島】2回裏徳之島一死一三塁、一走・幸が二盗を仕掛ける間に三走・久保が本盗を決め5点目=鴨池市民

大島はシード鹿実に惜敗
夏高校野球鹿児島大会第4日

 【鹿児島】第106回全国高校野球選手権鹿児島大会第4日は9日、鹿児島市の平和リース、鴨池市民の両球場で1回戦6試合があった。

 奄美勢は徳之島が住田、長尾の投手リレーで吹上打線を無安打に抑え、八回コールド勝ちだった。大島は第4シード鹿児島実を相手に4―7で惜敗だった。

 第5日は10日、両球場で1回戦5試合がある。奄美勢は樟南二が川薩清修館と対戦する。

好守で投手陣盛り上げる
徳之島

=市民球場=
 ◇1回戦(第1試合)
吹上
00000000  0
41000002X 7
徳之島
  (8回コールド)
【吹】若松―弥栄
【徳】住田、長尾―上原
 ▽二塁打 嶋田(徳)
【吹】
23008401023
打安点振球犠盗併失残
3311716070011
【徳】

 【評】徳之島は一回裏、二死二塁から4番・上原の右前適時打で先制。連続エラーで2点目が入り、二三塁と好機が広がって7番・住田が左前2点適時打を放つ。計4点を先取して主導権を握った。二回は重盗で5点目を挙げた。三回以降は立ち直った相手投手を攻略できなかったが、先発の住田、五回からリリーフした長尾の投手陣がテンポ良く無安打で抑え、守備も無失策の好守で盛り上げた。打線は八回に再び活気づき、3番・嶋田翔の中前2点適時打で7点差となり、コールド勝ちを決めた。

全球直球勝負!
「楽しかった」鴨池デビュー
徳之島・長尾涼投手

 「夏の優勝に向けた貴重なワンピース」

 報道用アンケートの文言に期待の大きさがうかがえる。1年生右腕が五回からリリーフでマウンドへ。八回まで打者12人を相手に7三振を奪った。先発した住田から継続し、無安打で投げ切る。「楽しかった」と上々の「鴨池デビュー」を振り返った。

 投じた46球は全て直球。「相手を圧倒する投球をしてほしかった」(捕手・上原龍樹)から1本打たれるまで直球以外のサインは出さないつもりだった。

 球速は120後半から130前半の数字を示し続けた。「悪い時は身体が突っ込んで、腕だけの振りになってしまう。しっかりと重心を後ろに残して投げられていた」と冷静に自己分析した。

 中学時代は伊仙合同のエース。強豪校からの誘いもあったが「チームメートが熱くて、彼らとだったら島から甲子園のワンチャンスがあるかも」と8人の同級生と一緒に島から甲子園を目指す夢を選んだ。

 先輩たちの熱意と野球への取り組みに刺激され、学び多き毎日だ。この日、四球で出した唯一の走者は上原が二盗を阻止。一塁手・嶋田翔は2度の好守で無安打をアシストし、最後のコールド勝ちを決める中前2点適時打を放った。良いリズムを作ってくれる先輩たちがいるからこそ、安心して全力投球できる。「次からも良いチームが相手になる。自分に与えられた役割をしっかり果たせるようにしたい」と今大会にかける意気込みを語っていた。

【1回戦・大島―鹿児島実】6回表大島二死二三塁、代打・橋口の中前適時打で三走に続いて二走・富が生還、4―3と逆転に成功する=鴨池市民

 ◇同(第3試合)
大島
000004000 4
01200202× 7
鹿児島実業
【大】中村、富、安田、富―要
【鹿】井上、長田―新改
 ▽二塁打 富(大)、西、高橋(鹿)
【大】
33748500037
打安点振球犠盗併失残
27774842109
【鹿】

 【評】3点差を追いかける大島は六回表、先頭の1番・吉野が四球を選び、初めて先頭打者が出塁すると、3番・要がエンドランを決めて一三塁と好機が広がり、4番・永田の中前適時打で1点を返す。二死一二塁と好機が続き、6番・富が右越え二塁打を放って2点目。代打・橋口が中前2点適時打を放ち、計4点を返して逆転に成功した。その裏、2失点で再び逆転を許す。八回表に一死満塁と再び得点機を作ったが、ものにできず。その裏2失点で点差が3点に開いた。九回は先頭打者が四球で出塁したが併殺で打ち取られ、反撃もここまでだった。

148㌢の代打、流れを変える
鹿実に初のリードも届かず
大島

 3点差を追いかける五回表。小林誠矢監督が先頭打者の代打に指名したのは、身長148㌢の森翔太だった。

 幼い頃から軟骨無形成症の難病を患う。小3の頃、東京から古仁屋にやってきた。二つ上の求航太郎(現東海大)が「一緒に野球をやろうぜ!」とハンディのある自分にも、分け隔てなく接してくれたことで野球が好きになった。

 満足に走れず、守備は心もとない。高校でも野球を続けるかどうか迷ったが「小ささを逆に生かせ!」と勧めてくれたのも求だった。代打の一振りで仕留められるようバットを振り込んだ。身長が極端に低い分、ストライクゾーンが狭くなるので四球で出塁も狙える。

 それまでプロ注目の150㌔右腕・井上に手も足もでてなかった「流れを変える」(小林監督)仕事を森に託した。

 「ベルトより上のボールは振らない。ベルトより下のボールをしっかりたたく」。2ボール1ストライクから4球目を強振=写真=。三ゴロで出塁はかなわなかったが、森が恐れずに弾き返したことで、試合の流れは明らかに変わった。

 六回の逆転劇の場面。エンドランを決めた3番・要彌真登主将は「森が弾き返してくれたことで打席での恐怖心がなくなった」という。常速140㌔超の速球対策は散々やってきたが、実際に打席に立つと恐怖心がどうしても拭い去れなかった。それが六回は恐怖が消え去り「絶対に打てるというゾーンにみんなが入って、楽しかった」

 劣勢の流れを覆し、過去の対戦で一度もリードすることさえできなかった鹿実を逆転できた。「束になった時の力はすごい」(小林監督)ことを証明してみせた。とはいえ、またしても勝てなかったのも現実。喫した3失策がことごとく失点に絡んだ。この現実から目をそらしてはいけない。

 「人生に挑戦してほしい」。小林監督はナインに語り掛ける。3年生はこれからの進路に、残る1、2年生は「島から甲子園」という夢に挑戦し続ける。かなう保証はなくても挑み続ける。大島が過去の先輩たちから脈々と受け継いでいく誇るべき「伝統」だ。(政純一郎)