東京で開催されたテッポウユリ初の八重咲き品種「咲八姫」のPRイベント
鹿児島県が育成したテッポウユリの新品種で八重咲きの「咲八姫(さくやひめ)」が、産地の沖永良部島で普及が進んでいる。2022年以降の出荷本数は毎年2倍以上に増加しており、出荷に影響する奇形花抑制へ栽培指針を見直している。ユリは仏壇や墓参りに供える仏花(ぶっか)のイメージだが、これを一新するブライダルブーケとしての活用企画もある。
県農業改良普及研究会発行の「農業かごしま」(24年5・6月号)で、農業開発総合センター普及情報課の今給黎征郎・農業専門普及指導員が「咲八姫の普及状況と今後の展望」を報告している。咲八姫は、テッポウユリ初の八重咲き品種で、花の豪華さや花持ちの良さから、新たな需要が期待されている。22年のジャパンフラワーセレクション切り花部門では最優秀賞を受賞し、花き業界から注目される品種となった。
産地での普及状況では、沖永良部島での咲八姫の切り花生産販売状況(2出荷団体まとめ)を報告。それによると、22年の出荷(4月12~29日)は本数4640本、1本あたりの平均単価287円、出荷率71%となった。23年(4月17日~5月5日)は1万500本と出荷本数は2・3倍に増加。一方で平均単価(250円)と出荷率(65%)はやや下がった。3月下旬から5月上旬までの出荷が可能と判断し、出荷期間を拡大した24年は、栽培面積11㌃、切り花生産者7戸で3万4640球の球根を定植した。
県大島支庁沖永良部事務所農業普及課によると、24年の出荷実績は2万4660本となり、前年同様2・3倍に増加した。平均単価は254円と前年並み、出荷率(71%)は上昇した。出荷本数の増加は生産者が球根を購入し増やす取り組みのほか、出荷期間の拡大があるという。
生産上の課題で挙げているのが、奇形花の発生。これまでの研究により「花芽分化初期の25度以上の高温やツボミ確認時期(発雷)の低温などで、奇形花を誘発」することが判明。適切な遮光や温度管理により25度以上の高温を避けているほか、肥料を多く施しすぎるとツボミまで栄養がいかない状態となることから改善を図っており、栽培の仕方で指針の見直しが今年度行われている。
市場での平均単価が示すように、咲八姫は高級花材として高値販売されている。22~24年の平均単価は250円以上で、同時期の既存品種(100円程度)と比べて大きな差があり、差別化が図られている。実需者(卸、小売りなど)の8割以上から「再度購入したい」との声が届いているという。こうした状況を受けて販売戦略として検討されているのがブライダルでの活用。JA県経済連にインターンシップした鹿児島大学の学生が、咲八姫の花言葉「あなたに会えた奇跡」を使ったブライダルでの販売戦略を考案したもので、県や関係機関でも、この花言葉を活用したPRを検討中だ。
沖永良部事務所農業普及課によると、仲卸業者が来年の早い時期にブライダルフェアを企画。このフェアに咲八姫を出荷してもらうことで、結婚式のブーケでの活用が提案されており、実現すれば用途の広がりにより需要の伸びが期待できそうだ。