伝える 大島海峡・戦争遺跡 =中=

西古見砲台跡で戦争に関するシマ唄を披露した白戸姫夏さん(瀬戸内町教育委員会提供)

奄美大島要塞司令部があった古仁屋高校前にある戦争遺跡マップ看板(右からまちづくり研究所部長の與倉音々さんと白戸さん)

西古見砲台跡でシマ唄
「対立の怖さ、平和のありがたさ」

 大島海峡を挟むように周辺にある近代(明治~大正~第2次世界大戦終結頃)につくられた、軍事に関係する遺跡。戦争の歴史を示す構造物だが、戦争自体は歴史に刻まれることなく今も勃発し繰り返されている。終結が見えないロシアによるウクライナ侵攻、中東ではハマスによるイスラエルへの越境攻撃とイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの侵攻。いずれも子どもたちを含む多くの民間人が犠牲になり、生命の尊厳が踏みにじられている。世界地図から戦地が消えることはないのだろうか。

 日本周辺の東アジアも緊迫している。台湾統一に強い意欲を示す中国は軍事力を拡大しており、想定される台湾有事を巡る攻防から南西諸島の防衛力強化が国策として進められている。日中の対立という歴史は繰り返されるのだろうか。

 「町内にある近代遺跡を一つ一つ調査していくと当時の状況が見えてくる。国防へ軍備増強を進めても争いを続ける限り悲惨な結末を迎える。マップを制作した六つの遺跡から、こうした流れが浮かび上がる。地域や国、そこで暮らす人々はそれぞれ違う。対立するのではなく話し合いによって、お互いを認め合うことが大切ではないか」と鼎さん。認め合うことで実現する平和な暮らし。歩むべき道を照らし出すのが戦争遺跡だろう。「遺跡について調べ知ることによって理解(戦争のない平和の大切さ)につながる」という鼎さんの思いに呼応するように、戦跡に関連した活動を展開しているのが古仁屋高校の生徒たちだ。

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 同校に発足した「まちづくり研究所」(與倉音々部長、部員24人)。部長で3年生の與倉さんによると、発足3年目で、有志の集まりからスタート。2年目に同好会となり、生徒総会を経て今年5月末付で部活動に昇格した。

 與倉さんは過疎化が著しい西方地区(瀬戸内町の西側、手安~西古見集落)の活性化策を探ったが、同様の活動をした白戸姫夏さん=3年生=は西古見砲台跡で、サンシンを自ら弾きながらシマ唄を歌った経験がある。

 昨年11月のこと。探究学習の支援を行っている関係者が来町した際だったという。白戸さんが披露したシマ唄は戦争に関する歌詞がある「くるだんど節」だ。「空が黒ずんできた」という意味のこのシマ唄は、教訓歌としても知られている。「戦時中の歌詞で、『忘れてならないのは昭和20年に広島と長崎に落とされた原子爆弾。原子爆弾に竹やりで向かっていっても勝てるわけがない』という意味が歌詞にはある」と白戸さん。自ら選択し戦跡で歌った戦争に関するシマ唄。戦争遺跡と歌詞が伝えるのは戦争の愚かさだ。

 「私は舞台でシマ唄を発表するよりも屋外で、歌詞に関係する場所でシマ唄を歌っていきたい。戦争遺跡を訪れ調べたり話を聞いたことで知れた構造物が伝える痛々しさ、怖さ。戦争を二度と起こしてはならない、みんな仲良くしたい、この思いを好きなシマ唄を通して伝えることができたら」。白戸さんは町内でも注目されている若手ウタシャ(唄者)の一人だ。師匠として慕う永井しずのさんの指導下で練習に励み、中学3年生から本格的に習ってまだ4年目だが、めきめき上達している。「周りからはシマ唄の才能があると言われることもあるけど、決してそんなことはない。寝ても覚めてもシマ唄ざんまいで練習を重ねている。声がつぶれ、サンシンを弾く手が腱鞘炎になったこともある。もっと上達し、もっとシマ唄について学びたい。他にも戦争に関する歌詞がないか調べ、戦争遺跡の前で歌っていきたい。それが戦争遺跡について知った私にできることではないか」

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 西方地区の活性化をテーマにした探究学習で戦争遺跡に出合った與倉さん。手安、久慈、西古見と西方地区に集中する。現地に足を運ぶと同時に鼎さんから説明を受けた。「西古見の砲台跡では、砲台(敵艦の侵入を阻止するのが目的)のほか、観測所や絵図があることも知った」と振り返り、リアルに身近で戦争の存在を感じたという。気になったのがこうした戦争遺跡の劣化だ。マップによると、西古見砲台には、砲台に関する一連の施設(観測所以外にも監守衛舎、コンクリート造りの小型防御陣地・トーチカ、対戦車壕など)が残っており、重要性から劣化を防止しなければならない。

 「レンガや石、コンクリートが崩れている箇所があった。このまま何もせずに放置しておけば構造物が崩壊してしまう。戦争遺跡が今に残るから争いや対立の怖さ、平和のありがたさをかみしめることができる。遺跡の保全を図ってほしい。未来に残すことで戦争を伝え語り継ぐことができるし、『戦争はだめ』という気持ちになる」。二人は願うように語った。