町誌執筆者がトークセッション

町誌の執筆者によるトークセッションが行われた刊行報告会(1日、和泊町あかね文化ホール)

親しまれ学術的評価期待 島の歴史文化語る
和泊町

 【沖永良部】和泊町の新たな町誌「和泊町の歩み」の刊行を記念した報告会「エラブ研究の現在地」が1日、同町あかね文化ホールであった。町誌の執筆者13人が参加し、沖永良部島の自然や文化、歴史についてトークセッションした。

 「和泊町の歩み」は、町制施行80周年記念事業として、3年前から編さん作業を開始。自然や歴史の専門家ら21人が執筆に携わり、今年5月末に刊行された。

 鹿児島大学名誉教授で歩み編さん委員会の皆村武一委員長は「前回の町誌刊行から40年が経過し、町は大きく変化している。新しい町誌が町民に親しまれ、学術的にも高く評価されることを願う」とあいさつ。報告会は、自然部会、歴史部会、町制施行後の和泊町部会の3部会に分かれてトークセッションを行った。

 自然部会は「エラブの豊かさ、再認識」をテーマに執筆者4人が登壇した。島の地質と成り立ちを担当した総合地球環境学研究所の新城竜一教授は「沖永良部島には多様な岩石が存在している。地質学的な素材を、子どもたちの自然学習などで活用してほしい」。魚類担当の鹿児島大学総合研究博物館の本村浩之教授は「2016年から魚類の調査を行った結果、780種類の魚を標本化し、記録することができた。そのうち2種類が新種だった」と説明した。

 歴史部会の執筆者4人は「歴史研究40年の進展と課題」をテーマに意見交換。考古学編を担当した和泊町教育委員会の北野堪重郎氏は「中世期は文字資料などが残されておらず、対象が考古学資料に限られるため、世之主関連遺産群など当該期の遺跡等の調査、研究が待たれる」。中世編の担当で郷土史家の先田光演氏は「世之主伝説のほかにも多くの伝説が島に残っている。伝説の在りようを調べると、島の発展や権力者の生活などの歴史が見えてくる」と述べた。近現代編を担当した皆村委員長は、島の経済状況について解説し「日本復帰後、奄美群島を対象に特別措置法に基づく公共投資が実施され、町民生活の発展、向上をもたらしたが、最終的な目標は達成されたとは言い難い」と指摘した。

 町制施行後の和泊町部会のメンバー5人は、「町のこれまで、これから」をテーマに、町の課題や今後の展望を発表。農林水産業を担当した大福勇氏は「収益性の高い安定した農業の継続には特徴ある農業体系を構築する必要がある」とし、島の特産品である「エラブユリ」の復活に期待を寄せた。

 質疑では、来場者から「島の豊かさを次の世代に引き継ぐために何をしたらいいか」などの意見のほか、「多くの人に町誌に興味を持ってもらうために公民館講座で教室を開いてはどうか」などの提案もあった。

 会場ロビーには、広報係が撮影した和泊町の写真や後蘭孫八城跡測量地図、沖永良部島の古地図、自然ポスターなどが展示され、来場者が熱心に見入っていた。