マングースバスターズ17年目・後藤さん わな、探索犬で捕獲

「奄美マングースバスターズ」のメンバーとして長年にわたって捕獲に取り組んできた後藤義仁さん

「人の責任で本来の島の生態系に」
森の中で地道な作業長年続ける
外来種対策「島内の監視体制を」

 奄美大島に持ち込まれた侵略的外来種のフイリマングース。国の特別天然記念物アマミノクロウサギなどの絶滅危惧種を捕食するなど生態系や農業に深刻な被害をもたらした中、捕獲作業を担ったのが「奄美マングースバスターズ」だ。危険を伴う森の中での地道な作業を長年続け今年で17年目の後藤義仁さん(49)は、「持ち込んだ人の責任で、本来の島の生態系に戻さなければならない。根絶を目標に数を減らし、奄美の生態系を守り、奄美の生き物を増やしたいという使命感がモチベーションにつながった」と振り返る。

 環境省の奄美自然保護官事務所がマングースバスターズを結成したのが、外来生物被害防止法が施行された2005年。後藤さんは翌年度の途中(07年1月)、メンバーに加わった。12人体制でスタートし、最多時は48人を数えたが、06~07年次は30人弱だったという。

 愛知県出身の後藤さん。バードウォッチング(野鳥観察)が趣味で、南の島への憧れのほか、「1歳の子どもに田舎をつくりたい」との思いから家族3人で奄美へ移住。マングース捕獲作業に従事するようになったのは職安に提出された求人を見て。「自然を守る仕事をしたい」。これが応募動機だった。

 捕獲で使用するのは筒状のわな。尾根沿いに設置するが、作業用の歩道をつくったり、山の中に目印を付けて下草を刈ったり…さらに崖地を下りたり、川を上ったり。毒蛇ハブとの遭遇もかなりあったという。遭遇だけでなく長靴の上から咬(か)まれるなど、まさに命の危険にさらされながらの作業を重ねた。

 07年度には探索犬3匹が導入され、08年度から活躍するようになるが、後藤さんはハンドラー(訓練士)として携わった。「マングースは賢い。わなで捕獲できないマングースを犬は捕獲することができた」。嗅覚に優れた探索犬。マングースの生体を探知・追尾して捕獲に貢献する生体探索犬、マングースのふんを探知するふん探索犬の2タイプが導入されことで、根絶に向けた対策強化が図られた。後藤さんらハンドラーによる育成訓練を経て、運用。「訓練によりコントロールできるようになった探索犬は、マングースが潜んでいる場所を発見できることが強み。捕獲で大きな成果を上げるようになった」

 環境省が駆除事業をスタートしたのが00年度。結成されたバスターズにより本格化したが、捕獲数は結成時(05年度)の約2600匹から、島内広範囲にわたっての作業によって17年度には10匹にまで大幅に減少。18年4月の1匹を最後に捕獲されていない。これまでの捕獲数は約3万2600匹に及ぶ。同省は根絶確率算出にあたって、作業実績を基にした統計の計算式(HBM)と、最後の捕獲後に母親が1匹生き残っていたと想定して算出する計算式(REA)の二つを構築。22年度の根絶確率はHBMで99・2%、過大評価が少ないREAで95・7%。3日の有識者検討会で示された23年度の確定データはHBM99・7%、REA98・9%の根絶確率と算出された。捕獲ゼロが続いているほか、島内449地点に設置した監視カメラにもマングースは映っていない。

 「捕獲作業にあたっては地元の皆さんが協力的だったのが大きかった。自然保護への関心を感じた。環境省、研究者、バスターズの連携だけでなく、地元の理解・協力があったから、こうした世界的にも珍しい大きなプロジェクトが成功したのではないか」と後藤さん。また、事業は一般社団法人自然環境研究センターが受託しているが、「われわれバスターズの意見・提案を、現場の声としてボトムアップしていただき、それがやりがいにつながっている。今後もモニタリングなどを通し関わることができたら」。

 マングースは根絶されたが、外来種問題は依然として世界自然遺産の島に横たわる課題だ。飼い猫が野生化した「ノネコ」による固有種被害も示すように外来生物自体が悪いのではなく、持ち込む・あるいは放棄するわれわれ人間にこそ問題がある。認識の欠如が被害を生み出す根幹と言える。「身近にある素晴らしい自然をこれからも守っていくためにも外来種を入れない、入ったとしたらできるだけ早く対策に取り組む。すぐに発見する体制こそ大事ではないか。それには地元の関心が欠かせない。島民みんなで協力して監視していく体制が構築できたら」(後藤さん)。外来種に対する監視体制。実現してこそ20年以上に及ぶマングース根絶事業は教訓として刻まれる。