「慶大生が見た奄美徳之島の未来像」

奄美・徳之島の課題分析や調査成果を報告した慶應義塾大経済学部のゼミ生ら=18日、徳之島町役場で


高岡徳之島町長らに研究報告書の贈呈も

率直な指摘・提言寄せる
研究3年目、報告会と報告書 徳之島町で

 【徳之島】徳之島の「地域活性化に向けた歴史的研究と具体的提案」をテーマに2022年度から研究調査を続けている慶應義塾大学経済学部橋口勝利(かつとし)研究会の成果報告会と、初期2年間の研究報告書の贈呈式が18日、徳之島町役場であった。首都圏の大学生たちの視点で医療・福祉、経済、観光問題など諸課題を多角的に考察し、率直な感想や提言を寄せた。

 奄美徳之島に焦点を当てたのは21年の世界自然遺産登録が端緒。同学部・橋口勝利教授(49)の引率で22年から現地調査を開始。関係エリアの調査や企業・個人への取材、県立徳之島高校では交流授業でふるさとへの思いや職業観など生の声も把握。このほど前年度の3、4回生(卒業生)16人の研究報告書『慶大生が見た奄美徳之島―子宝の島の未来像―』(同研究会、A4判・258㌻)を作成した。

 徳之島町への同書贈呈式と併せた3回生らの課題分析レポート報告会のテーマは「徳之島の地域振興の課題―医療関係に注目して―」。慶大側から橋口教授と研究生9人、町側から高岡秀規町長ら幹部3人が出席した。

 学生らは、地域医療の将来像「人的資源の活力向上による、持続性・主体性のある地域活性化」への課題については、①若者の島外流出が多い→島内での医療従事者不足②高齢化が急速に進行→医療ニーズは増える一方―などデータで指摘し「医療基盤充実が必要」。ほか、島内3町間の医師数やベッド数の偏り、医療ネットワークの強化、行政主体の医療・福祉基盤の充実、人的資源の活力向上による持続性・主体性のある地域活性化の実現―なども指摘・提言した。

 報告書『慶大生が見た奄美徳之島―子宝の島の未来像―』は、①戦後日本経済と徳之島②徳之島とエネルギー③徳之島を支えるもの―メディア・観光・農業・地方銀行―の計3部・9章(班)で構成。同研究会リーダーの水谷雅(みやび)さん(22)=経済学部=ら4回生4人が概要を紹介して町側に贈呈。

 同書では、高い合計特殊出生率の傍らで続く急速な人口減少、労働力不足要因の島外・群島外転出など対策には「産業振興を通し、労働者にとって魅力ある雇用の創出が重要な課題」。観光面では、「世界自然遺産登録も効果的な策を講じない限り、一過性のブーム終焉(えん)に伴い、多くの世界遺産登録地域同様、入り込み客数は減少に転じ、結果として環境への影響、地域活力のさらなる低下を招くことが危惧される」とも。

 条件不利地への観光面では「特に船便は(所要)時間、航空便の金銭的コストは他の離島と比較しても高く、多くの奄美群島訪問者に共通する不満。16年9月以降は奄美大島へのLCC(格安航空会社)就航に伴い、観光地としての相対的地域低下がみられる。徳之島は条件不利性を克服する観光地化構想が必要」

 さらに首都圏から直行便のない航空運賃(鹿児島経由)問題では、「現状を早急に打破しないと、近年発展の兆しが高まりつつある観光産業など新規産業の発展を妨げ、さらなる島民の転出も想定される」とも指摘する。

 一方、観光商品開発の現状では「エコツーリズムは、内発的な観光産業の進展で重大な示唆を与える観光形態だが、現下の徳之島は発展途上」。観光連盟や3町観光行政の連携、人材確保の必要性も提言。幅広い分野で、若者らしく自由奔放な課題と提言を綴っている。