24日に告示された喜界町長選、町議選はともに無投票で終幕した
24日に告示された喜界町長選、町議選はともに無投票で終幕した。町長選は、現職の隈崎悦男氏(70)が8年ぶりの無投票で再選。町議選(定数12)は、新人5人が立ったものの、現職5人の引退なども響き、初の無投票で決着した。二つの選挙で一度も投票機会がない事態に、有権者からは「喜界のことをどう考えているのか分からない」「政策を選択ができない」といった声も聞かれた。無投票は、有権者が意思表示できないだけなく、関心が薄れることで住民の政治離れが加速する懸念もある。
■ダブル無投票
ダブル選の立候補届け出が締め切られた24日午後5時。役場前の掲示板には候補者13枚のポスターが並んだ。町長選は現職、町議選は定数と同数の12人。ともに選挙戦にはならず、それぞれの選挙事務所では当選を祝う声が響いた。
町長選の無投票は2016年以来8年ぶり、町議選に限れば1956年の町制施行から数えて通算17回目の選挙で初めて無投票となった。新たな立候補者を擁立する声もあったが、最終的には〝無風〟での決着となった。
選挙前には町議現職12人のうち4割にあたる5人が引退した。立候補予定者説明会には13人が出席したものの、1人が出馬を断念した。退いた議員の1人は「一時期は20~30代の議員も増え、若手もとりあえずはやってみようという空気もできていたが、今回はそうはならなかった」。結果は30代の候補者は1人。「(地縁血縁など)取り巻きにしばられている。議会の活性化を考えれば、若手を盛り上げていく寛容さは必要だ」と話す。
20年の前回選挙は、投票率が86・59%(前々回95・67%)。選挙戦になれば多くの町民が投票所を訪れ民意を示してきた。
赤連に住む68歳女性は「(町議選で)これまで選挙がなかったことはなかった。無投票では候補者が何を考えているのか分からない」と戸惑いを見せる。農家の男性(43)は「政策を知る機会がなく、知らないうちに(選挙戦が)終わった。肥料高騰など何にどう取り組むのかを聞きたかった」と心配する。
1回の無投票で「民主主義の危機」と捉えるのは早計だが、論戦や投票がなくてはその土台は揺らぎかねない。顔の見える町政、議会づくりは急務だ。
■無投票の余波
当選議員を集落別でみると、赤連、上嘉鉄、城久、小野津が各2人、佐手久、西目、志戸桶、川嶺が各1人だった。集落に議員のいない坂嶺の男性は「擁立のうわさはいろいろあったが結局は出なかった。集落でなくても島を活性化できる議員であれば応援したい」と期待する。
一方で2人の議員を送り出した上嘉鉄の男性は「それぞれにしがらみもある。2人がいてもこれで安泰というわけではない」と冷めた様子で話す。
昔から地方の選挙は特に地縁血縁が色濃く反映され、期間中は街頭演説の応酬により、まちは選挙ムード一色という光景が当たり前だった。ところが、全国的に成り手不足から選択の機会がなくなるという事態も相次いでおり、同町も決して蚊帳の外ではない。湾で飲食店を経営する男性(72)は「成り手不足と思われても仕方がない。以前は集落、住民、関係者、みんなが選挙に対して活発だった。(無投票で)対立が避けられてよかったというのは論外。議員定数削減も考えるべきだ」と怒りをあらわにする。無投票の余波は住民の迷いや不満という形で広がっている。
■課題
民間の有識者グループ・人口戦略会議が今年4月に公表した推計(移動推定)によると、同町の人口は2050年までに約3900人まで減少すると予想されている。20~30代の女性に限れば193人と現在の半分。その後は人口が急減し、最終的には町が維持できない「消滅自治体」になる可能性があると指摘されている。
課題は山積し、今回の選挙では子育てや妊産婦の支援、移住定住策、産業振興などの人口減少対策に絡む政策の公約が立候補者からは相次いだ。ただ、信任を得たからといって個々が勝手に動いていては解決につながるレベルの問題ではない。機能不全に陥らないためにも、全員が状況を把握し、一丸で取り組んでいくことが大切だ。
ある選挙関係者は「少子化問題は長期的な課題。議会が議員を育てる意識を持つことが大事だ」と提案する。「成り手をつくるだけがゴールではなく、地域課題について活発に議論し、結果を出せる議会になることも重要だ」と指摘した。
無投票の選挙が今後も続くようであれば、特に若年層の政治離れが加速するという危機感を持たなければならない。そのためには、住民一人一人が自らの意思表示を行える環境も大切になる。今回の無投票を踏まえて次はどう変わるのか。今後の4年間を、町民とともに見守りたい。
(喜界町長選、町議選取材班)