年度末ぎりぎりの今年3月29日。私たち島民の〝命綱〟とも言える法案が成立した。奄美群島振興開発特別措置法の一部を改正する法律(改正奄振法)だ。衆院本会議に続き、同日の参院本会議で全会一致可決。これにより同法は期限が2028年度まで5年間延長された。
法改正に伴い目的には「移住の促進」が追加され、空き家改修など住宅整備支援や情報提供など配慮規定を新設。基本理念に「沖縄との連携」を追加し、人流・物流の活性化を支援する。奄振法に基づき設立された公的金融機関・奄美群島振興開発基金にも新たな動きがあった。現行の債務保証や融資業務に加え、「コンサルティング」業務の追加だ。民間事業者へのきめ細やかな経営支援を通じて新たな収益源を確保し、同基金の経営改善につなげる。
コンサル業務による経営改善は法延長初年度の今年度から動き出している。発端となったのが、国土交通省が事務局となり設けられた金融分野の有識者でつくる検討会。5月に設置され、6月下旬に経営改善に関する方向性が取りまとめられた。この中には増加する繰越欠損金の削減に向けて有償のコンサル業務を展開できるよう、人材育成や組織強化を進めることを盛り込んだ。ただし、これまで対価をとらずに行っていた取引先に対する経営相談などのコンサル業務を「いきなり収益の柱に掲げて有償とすることは、事業者との関係も踏まえると困難」として、「まずは、基金が有する奄美群島ならではのネットワークや知見を生かした情報等を金融機関や行政に提供して対価を得ることが考えられる」としている。
検討会が示した方向性を受け、さっそく組織体制が整えられた。同基金の藤井隆理事長によると、9月1日付でコンサル業務担当の「経営支援課」を新設。専従1人、兼務2人の職員計3人で対応する。奄振施策と連携した事業者への支援を実施するため、奄美群島広域事務組合による奄振交付金を活用した事業のうち、事業者支援事業の一部を受託。事業者への経営支援(アドバイス、人材紹介、マッチングなど)に乗り出す。
一般的な金融機関が融資しない農業など第1次産業への融資実績から、奄振基金の場合、1次産業の事業者との関係性を認識してしまう。藤井理事長は「(コンサル業務対象は)1次産業に限らない。『奄美で事業をしたい』と島外から移住してきた人なども対象にし、伴走型支援により将来にわたって事業が軌道に乗るよう、相談を受けながら指導・助言していきたい」と話す。
奄振基金によるコンサル業務。今回の組織体制を第一歩として専門的な技能を身に付けた専従職員が増員されるなど体制が強化されたら、中小零細規模がほとんどの奄美の事業者への経営指導により事業が見直され、経営安定に結び付く可能性がある。
群島内の各産業を担う民間の経営が安定してこそ地域に活力が生まれるのではないか。待遇的に勝る行政職員(公務員)と民間企業職員との格差が改善できたら、魅力ある業種として若い人材からも選択されるかもしれない。それに向けた政策と位置付けると法改正に伴い追加された奄振基金のコンサル業務は重要だ。奄振事業の予算獲得、事業の充実を国政の役割に挙げるだけでなく、「民間を生かす」施策の視点で国政の立場からコンサル業務に着目し、十分な人員が配置できるよう裏付けとなる予算確保を働き掛けるべきだ。そのための政治力こそ期待したい。
異例の短期決戦として衆院選挙がスタートした。県内の選挙区では12人が立候補したが、奄美群島を含む2区は最多の5人による争いとなった。選挙期間中、奄美入りする候補者もおり、限られた機会ながら街頭演説などを通し政策を直接聞くこともできる。候補者自身や党が掲げる政策・公約を吟味したい。託せるような地域課題の掘り起こしと展望を描く方策が示されているだろうか。
(徳島一蔵)