43日間かけ1209㌔移動 アサギマダラ

富山県でマークされたアサギマダラが1209㌔㍍の長距離を移動し奄美大島北部に飛来した。吸蜜植物はヤマヒヨドリバナ(5日、龍郷町長雲峠)

富山県から奄美大島へ
温暖化影響か南下数少なく

 日本列島を長距離移動するチョウ・アサギマダラの秋の渡りで、富山県でマーキング(翅(はね)への標識)されたものが今月上旬、奄美大島北部で再捕獲された。43日間かけて南西方向に1209・4㌔㍍移動したことが判明。飛来が確認された場所は自生する吸蜜植物の群生地があり、渡りを迎える環境が整っているものの、今秋は飛来数が少ない傾向にある。

 今月5日午前、龍郷町の長雲峠(標高298㍍)で再捕獲されたもので、標識は「TSN 565 9・24」。富山県の施設である同県自然博物園ねいの里では、2002年から富山アサギマダラ調査グループを立ち上げ、園でアサギマダラの移動解明に取り組んでいる。TSNは施設名「Toyamaken Shizenhakubutsuen Neinosato」の略。565は30人いる調査メンバーのナンバリングで標識者を指し、9・24は標識日。同日に同県の下新川郡朝日町大平(だいら)でマークされたという。

 アサギマダラは「温度が高すぎても低すぎても飛べなくなる生き物」で場所によって異なるが、22~25度前後を好むとされる。春は台湾を含む南西諸島から本州などへ北上、秋は逆に南下するが、同グループによると、今秋の富山県への飛来は9月20日に初を確認。例年より2週間ほど遅れての飛来という。飛翔(ひしょう)ピークは9月下旬で、捕獲数は13匹。例年(4~14匹)と変わらないとしている。

 奄美大島での過去の再捕獲例(TSNマーク)は、調査記録が残る03年以降、18年(1251㌔㍍38日間)、20年(1200㌔㍍58日間)、22年(1200㌔㍍82日間)それぞれ1匹ずつに続いて。同グループは「今年、富山県から南下し再捕獲されたものは現在(今月6日現在)26匹。毎年の再捕獲数は変動が大きく(9~62匹)、昨年は61匹だった。例年の再捕獲のピークは10月」と説明。全国的にみても「再捕獲の情報が非常に少ない。この状況は2年前から顕著。温暖化の影響なのかは全国的な調査団体(アサギマダラの会)が情報を集めている。少ないということは、南下飛翔数も少なくなってきている可能性大か、調査者が少なくなったのかはシーズンが終わらないと分からない。北上シーズンは例年通りだが、南下が極端に遅くなっている」としている。

 アサギマダラ研究家として知られ、『謎の蝶 アサギマダラは なぜ海を渡るのか?』などの著書がある栗田昌裕さんは「11月に入っても静岡で飛来が確認されるなど、まだ本州に滞留している。再捕獲情報などから喜界島、奄美大島への南下が遅れており、数も非常に少ない。時期の遅れだけでなく南下率が低下するのではないか。温暖化がもたらす気候変動の影響とみられる。アサギマダラの移動を、温暖化を示す指標と捉えたい」と指摘する。

 奄美大島で再捕獲されたアサギマダラは、富山県の飛来地では集落の住民が管理する植栽されたフジバカマ(吸蜜植物)畑に飛んできたもの。これに対し奄美の場合、同様に飛来するヤマヒヨドリバナは自生の群生地が残る。長雲峠一帯、長雲林道の路傍には多くの群生地があることから栗田さんは「南下のシーズンが終わるまで、年内はヤマヒヨドリバナを刈り取らず残してほしい。道路を管理する自治体は理解していただきたい。本土ではアサギマダラを呼ぼうと吸蜜植物を植えて管理している。奄美は自生しており、恵まれた環境との認識に立ってもらいたい」と呼び掛けている。