デジタル化の推進、「横展開」で漁船漁業の経営改善が期待される(名瀬港で、資料写真)
水産庁が進めている「デジタル水産業戦略拠点」に今年度、鹿児島県が認定された。県域としては全国初という。漁場予測システムの開発などに取り組み、情報を相互に共有することで生産性向上などに役立てる。
同庁によると、昨年度から取り組んでいるデジタル水産業戦略拠点整備推進事業は、これまで資源管理、生産、加工・流通、消費の各段階で個々に実施されていたデジタル化の取り組みを面的に地域一体で取り組む同拠点を創出。その「横展開」を図っていくもの。
鹿児島県が認定されたのは今年7月。同庁では2025年度までに2地域、27年度までに5地域で実施し、32年までに希望する全ての地域への横展開を目標に掲げている。事業により、▽資源管理=水揚げ量データの把握による資源評価・管理▽生産=沿岸漁業:漁海況データを活用した出漁可否の判断や漁場の選定、沖合漁業:衛星データやAI(人工知能)技術を利用した効率的な漁場選択や省エネ航路選択、養殖業:餌代や人件費等の経費など養殖生産の「見える化」、AIを活用した自動給餌やスマートフォンによる遠隔給餌▽加工・流通・消費=画像センシング技術を用いた自動選別、AIによる品質測定、ニーズに応じた出荷―を実現。漁村地域の活性化のほか、消費者の安心趣向への対応や食品ロスの削減、ワーケーションなどによるQOL(生活の質)向上などが期待される。また、地域外のスマート水産業に興味のある漁業者や加工流通業者、デジタル推進員、デジタル人材等に学ぶ場を提供する。
認定を受けたことで県は計画を策定。商工労働水産部によると、漁場予測システムの開発やシラスウナギの採捕許可及び採捕報告のデジタル化のほか、赤潮情報を一元化し迅速な情報共有を行う赤潮情報ネットワークシステム開発などを検討している。今後、策定された計画に基づきIT技術を活用した水産業のデジタル化を図ることにより、生産性の向上、省人・省力化、漁村の活性化を推進する方針。
県水産振興課によると、鹿児島県は全国3位の長い海岸線(総延長2643㌔㍍)と南北600㌔㍍に及ぶ広大な海域と多くの島嶼(とうしょ)を有し、黒潮の恵みを受け、沿岸・沖合域で多様な漁船漁業が営まれているほか、海面養殖業も盛ん。22年における全国順位は、漁業生産量12位、漁業生産額5位。一方、水産業を取り巻く情勢は、漁業生産量の減少や燃油価格の変動による漁業経営の不安定化、漁業就業者の減少・高齢化等に加え、魚価低迷、餌飼料価格の高騰など厳しい状況が続いている。