新しい整骨院の在り方を模索する元さん
【鹿児島】肩、腰が痛くて整骨院を受診する。電気治療やマッサージ、ストレッチなどの施術が健康保険適用で受けられるので、数百円の自己負担で済む。長く一般的だった整骨院業界の在り方が近年大きく変わろうとしている。少子高齢化が進み、医療費の削減が国の課題になる中で、健康保険から整骨院に払われる診療報酬も厳しい規制がかかるようになってきた。鹿児島市荒田で「島ちゅ整骨院」を営む元(はじめ)秀一さん=奄美市出身=(50)は今年6月から、保険診療をやめて、自由診療に切り替え、新しい整骨院の「かたち」を目指す取り組みを始めている。
元さんは、30歳から8年間、市内の別の整骨院で働きながら柔道整復師の資格を取り、38歳で独立。開業して12年になる。診療の在り方を見直すきっかけは5年前だった。
日本スポーツ協会が認定するアスレティックトレーナーの資格を取るために、東京で講習を受けに行った際、関東や関西で元さんと同じように整体とスポーツトレーナーとして活動している人たちが「いよいよ保険診療だけではやっていけなくなる」と危機感を持っていた。いずれ国は、今までのような診療に対して保険を適用しなくなるだろう。そうなる前に自由診療に切り替え、独自の整骨院の運営方式に取り組んでいる人たちを5年前に知った。「いずれ鹿児島もそういう流れになる」と同じ危機感を共有した元さんは5年間の準備期間を経て、今年6月から自由診療方式に切り替えた。
それから約6か月。「プレッシャーから解放され、やりたいことが自由にできるようになった」と元さん。保険診療をしていた頃は、1日平均約25~30人、多い日は40人の患者を1人で診ていた。保険診療は治療費が安い分、そのぐらいの患者をこなさなければ1人で運営する整骨院は経営が成り立たない。患者1人につき施術15分、電気治療15分で約30分の平均滞在時間と考えると、それだけの人数を連日さばき続けるのは体力的にも厳しい。加えて、保険請求のためのカルテや書類などを書くレセプト業務が煩雑になってくる。その上、同じ治療をしても保険から支払われる診療報酬はどんどん減額される流れで「薄利多売」にならざるを得ない。
自由診療に切り替えてからは15分2000円、30分3500円、60分6500円の料金設定で従来の治療のノウハウを生かした整体をする。もう一つは「スポーツ整体」と銘打って、トレーニング指導や身体のメンテナンスを15分2000円、60分6500円のメニューがある。
客単価が上がった分、来院数は整体が1日平均3~5人、スポーツ整体が月平均4人と少なくなったが「売り上げは保険でやっていた頃と変わらない」。患者数が減り、煩雑な業務からも解放されて時間ができた分「頭を使って経営的なことを考えるようになった」。
保険診療の頃は60歳以上の高齢者が約6割を占めていたが、やめてからはほぼ来なくなった。その分、30~50歳代の現役世代の女性の来院数が増えた。健康志向やダイエットなど目的はさまざまだ。
高齢者に対しても今後は「体操教室」などを定期的に開催し、保険診療でなくても足を運んでもらえるような取り組みを模索する。今はまだ痛みが出たので「治療」してもらう人が多いが、正しい動作を覚えてトレーニングをして痛みのでない身体を作る「予防」へと意識が向く流れを作っていきたいと元さんは考えている。(政純一郎)