地域共生 社会は今 福祉の連携①

2019年3月にあった「奄美共生プロジェクト」の第1回イベント。老若男女が車いすや徒歩で名瀬市街地を練り歩き、交流を深めた

課題に住民の他人事意識
関心、どう高めるか

 それぞれの地域にある課題、それぞれの地域が解決力を持ち、住民相互で支え合う体制をつくる――。この理念で2017年、厚生労働省が掲げた施策がある。「地域共生社会」の実現だ。全国の自治体、首長向けの提案も行われたが、奄美大島では介護保険サービス事業に取り組む民間の事業所が行政と連携しながら進めた。新年度、新たな形態での再スタートが検討されている。農業との連携、産業創出への関わりを含めて共生の今を取材した。

 同省に設置された「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部では、地域共生社会について、こう位置付ける。「制度・分野ごとの『縦割り』や『支え手』『受け手』という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人一人の暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」

 改革の骨格として、①地域課題の解決力の強化②地域を基盤とする包括的支援の強化③地域丸ごとのつながりの強化④専門人材の機能強化・最大活用―を挙げたが、この中では住民相互の支え合い機能強化や地域課題の解決を試みる体制整備といった「看板」と言える施策のほか、先進的な取り組みの支援も。社会保障の枠を超え、地域資源(耕作放棄地、環境保全など)と丸ごとつながることで地域に「循環」を生み出す取り組みであり、これは奄美の事業所でも試みられている。

 地域共生社会実現に向けては、公益財団法人「さわやか福祉財団」が首長に提案した。この中では多くの自治体が直面している課題として、住民の他人事意識(当事者としての意識が低い、行政依存の体質が抜けない)、不十分な国の政策(住民の自由な活動を妨げる規制)を挙げた上で、対策として着手することに「住民が自分たちで解決しようとする動きをつくる」を求めている。「住民が動かなければ何も解決しない」ことから、ポイントとなるのは住民が地域課題・問題点を我が事として受け止め、主体的な解決に向けた取り組みの促進だ。各自治体とも必要性は理解できてもなかなか改善できない部分ではないだろうか。

 財団は方策を示している。「理解を得る」(地域課題・問題点を率直に説明し、住民の理解を得る)↓「意向をまとめる」(多様な解決策を提示し、住民の大意をまとめる)↓「実現する」(住民の主体的な動きを形にしていく)。地域共生社会の実現は奄美の自治体でも今なお直面する政策課題と言えないか。共生社会の実現に向けて、より福祉的な視点で進められたプロジェクトがある。「高齢者、障がい者などが自分の住み慣れた地域で生活できるような地域づくり」を目指した奄美共生プロジェクトだ。

 ▽共に参加

 結成された実行委員会が主催したが、中心となったのが奄美大島介護事業所協議会(盛谷一郎会長)。「奄美共生プロジェクト~みんなの思いを紡いで~」を掲げ、第1回イベントが行われたのは18年度(開催は19年3月)だった。イベント内容は、全国各地で開催された認知症の人と共に歩くリレーイベント「RUN伴」を参考にした街中リレー(街の中である名瀬市街地を三つのコースから歩き、当時、運用されたばかりの市役所新庁舎がゴール)のほか、共生マルシェ(就労支援施設や地域おこしグループなどが、各事業所等で制作している物品の販売や展示紹介)、市民公開講座(専門家を招いての勉強会)。高齢者、障がい者、そして子どもたちなどが共に集える活動を目指した。

 同協議会副会長で実行委員会事務局を務めた勝村克彦さん(53)は振り返る。「介護や障がい者支援に取り組むいろんな団体に関わってもらい、できるだけ多くの人に参加してもらおうと開催に向けて話し合いを重ねた」。翌年度には2回目を計画したものの、新型コロナウイルス感染症の拡大によって中止に追い込まれた。

 コロナ禍によって19年度に続き、20年度、21年度と3年連続で中止に。復活したのは22年度(23年2月に開催)。街中ウォーキング(歩こう会)と専門家を講師に招いての講演会の二本立てで再開され、23年度(24年2月開催)も同様の内容となった。コロナ禍で3回中止となったが、計3回実施された共生プロジェクト。24年度は切り口を変える方針だ。「車いすの障がい者、要介護の高齢者などがこれまでのプロジェクトに参加していただいたが、参加者をさらに広げることができないか。もっと多くの皆さんに参加してもらいたい。地域共生社会をつくるためには当事者、私たちのような福祉関係者など支援者だけでなく、日頃から居住地域で関わる一般の皆さんをどれほど巻き込めるか。一般の参加を高めるイベントにすることが求められるのではないか」(勝村さん)

 ▽関わり

 支援者の関わり。障がい者や高齢者に対し、勝村さんは「ポイント、ポイントで関わるだけ」と表現する。デイサービスの利用で考えてみよう。自宅まで事業所の送迎があり、食事、入浴、レクリエーションなどをして過ごすが、夕方から夜には自宅に戻る。事業所よりも自宅で過ごす時間の方が圧倒的に長い。一人暮らし。身体的なトラブル、あるいは自然災害…何かあった時、どうなるだろうか。「隣近所や集落の人たちが、日頃から支援が必要な人に関心を持ち、手を差し伸べてくれるような環境を創出できるか。地域全体での助け合い。もともと奄美はそういう土壌があったと思う。ただ名瀬地区は人と人のつながりの面で都会化してしまい薄れてきているのではないか」。勝村さんは強調する。

 「みんなで協力して助け合う。そんな雰囲気、意識を醸成していくためにも一般の皆さんをイベントに参加させたい。障がいがある皆さんなどとの交流が必要だと認識させたい。支援者だけでなく一般をどれだけ巻き込むか。それが奄美共生プロジェクトの肝。一般の皆さんが関心を持ち参加する。そんなイベント内容にしたい」。具体的な取り組みに向けて昨年10月下旬、勝村さんらは兵庫県尼崎市に向かった。(つづく)