地域共生社会は今 福祉の連携④

就労継続支援B型「あまみん」を運営する㈱リーフエッヂ代表の田中基次さん
タンカンの摘果作業に取り組む外作業チーム

チームを編成して就労
体調や特性合わせ調整

就労を希望する障がい者を支援する事業所にはA型とB型がある。厚生労働省によると、一般企業に雇用されることが困難だが、雇用契約に基づく就労可能者に対し、雇用契約の締結等による就労機会の提供及び生産活動の機会提供を行うのがA型。雇用契約に基づく就労も準備が必要な人に対して、就労機会の提供及び生産活動の提供(知識及び能力向上のために必要な訓練)を行うのがB型だ。企業的がA型と言えないか。

この就労支援事業所、奄美大島で開設が増えている。新規開設数は2014年以前まで8か所だったのが、14~18年で12か所、19~24年で11か所と著しい。中でも増加しているのがB型で現在、奄美大島には28か所もある。数の多さから「事業所の存続に向けて利用者の取り合い、さらに支援する職員の取り合いも起きている」という指摘がある。こうした事情も他の福祉関係事業所に比べて横の連携を難しくしているのかもしれない。

「稼いだ分からしか出してはいけない」というルールの下、利用者には工賃(賃金)が支払われる。厚労省が公表している22年度の平均工賃をみると、月額でB型の場合、1万7031円(全国平均)。これに対し約3倍の5万146円の工賃を支払っている事業所が龍郷町にある。㈱リーフエッヂ(田中基次代表)が運営する「あまみん」だ。農業と福祉の連携の「農福連携」を早くから実践しているが、作業の受託だけでなく加工食品の開発や販売、情報発信にも力を入れている。
 
 ▽チーム

作業療法士でもある田中さん(49)。埼玉県出身で、40歳で奄美大島に移住し、精神科訪問看護ステーションで1年勤務後、あまみんを起業した。登録利用者は35人で、2023年度実績は21・3人。利用者のうち精神疾患が全体の6~7割を占め、発達(知的)が1~2割、残りは脳卒中後の身体障がいなど。1日4時間、週5日間の利用だ。

農福連携に取り組むようになったきっかけは、事業所の建物整備にあたり近隣への説明(事業内容)の際。奥地にある農家から「やるんだったら農業を手伝ってほしい」「収穫作業など人手が足りなくて困っている」との声が寄せられた。田中さんは振り返る。「就労支援で最初から頭にあったのが農業と食品加工。近場で見つかっただけに、『やりますよ』と即答した」

マンゴー、シイタケ、タンカン、ドラゴンフルーツなど近隣農家の手伝い(受託作業)で工賃につながったが、収穫や摘果といった作業は時期が限られている。農作業のない閑散期にはどうするか。そこで食品加工を軌道に乗せるため、加工用の原料を自家栽培する農地を所有しようと農業をメインとした法人(㈱あまみあぐり)も設立した。

あまみんで利用者が取り組む仕事。チームを編成しており、農福連携では「外作業」(近隣農家の手伝い、ハーブ・熱帯果樹栽培)、加工関係では製造販売する「ジェラート」「ハーブティー」「蒸留」(精油・芳香蒸留水など)のほか、入力やデザイン、SNS投稿、撮影などを行う「パソコン」チームもある。パソコンは通所だけでなく在宅で取り組むことも可能だ。地産地消ジェラート・フード・飲料を提供する店舗(ジェラテリア)も開設している。
 
 ▽調整

各チームの仕事は、軽度(ごく簡単な仕事)から一般就労を目指すような内容まで分かれる。現在5~6人が所属する外作業チームは農作業に従事するだけに体力が必要な仕事。「皆さん筋骨隆々でたくましい。草刈り機など農機具も使いこなす。夏場の昼間の時間帯でも動き回る」と田中さん。ただし作業には男性スタッフが付き添っており、集中力が続くようこまめに休憩を取っている。

屋内での作業を希望する人には、食品加工がある。「一番軽めの仕事がハーブティーチーム。負荷が少ないことから入り口と位置付けている。自宅に引きこもっていた人にまずは外に出てもらい、通所の継続へ室内での作業からスタートしてもらう。慣れてきたら、体力づくりやリフレッシュのためにハーブの収穫といった外作業チームのサポートをお願いしている」

それぞれの体調や特性に合わせて仕事の強弱を調整。可能なのは専門職を多く抱える手厚いスタッフ体制を維持しているからだろう。15人(一日あたり10人)のスタッフの資格は作業療法士、精神保健福祉士のほか、看護師や介護福祉士は複数いる。管理栄養士や農福連携技術支援者も存在する。代表の田中さん自身がさまざまな資格を所有する専門職だけにスタッフの一人でもある。そんなスタッフは利用者に対し作業の適応力だけでなく、「集団生活になじめるか」を重視している。(つづく)