シマ唄に秘められた島の歴史文化を広く伝えるために④

右から伊藤さん、江草さん

右から内田さん、勇さん

古橋さん

弟子たちから聞く朝崎さんと奄美のシマ唄と

 昨年12月、朝崎さんに直接学んでいる弟子5人、勇みつえさん、伊藤宙美さん、内田潔さん、江草裕子さん、古橋良文さん(五十音順)に直接話を聞くことができた。

 「大会の申し込みした?」――。開口一番、今年の奄美で開催されるシマ唄大会の話で盛り上がる。「お稽古の時にはいつもテーブルの上にはお菓子が盛られていて、歌だけでなく懐かしさも学んでいる気がします」と伊藤さん。コロナ以降稽古は個人になったという。

 伊藤さんは、あけもどろ会の前身「十五夜会」に所属している時に大会に出ようという話が出て、「大変大変、ちゃんと歌いなさい」と朝崎さんが稽古を付けてから、歌の弟子になった。朝崎さんは口三味線で三味線を教えるほど、音が身体に染み入っており、方言の発音にも厳しいという。

 奄美3世の内田さん=先祖が奄美でなかったら、続けてないし、やってないと思う。朝崎さんとの出会いはCD「うたばうたゆん」だった。感動して聴いていた。それから10年ぐらいして、先祖が奄美と知り、奄美サンシン会に入会、シマ唄を聴いたが一曲も知らなかった。1年ぐらい朝花が歌えなかった。捉えられない状態だったが、裏声が出始めたらアドレナリンが出てくるような感覚で、シマ唄にはまっていった。

 江草さん=どうしたら裏声が出るのかいろんな人に聞いたところ「海に入ったらいいんじゃない?」と全員から言われ、花富の海に入る。すると裏声が出るようになったんです。

 伊藤さん=CDの写真にほれてジャケット買いで存在を知り、池上本門寺のライブで初めて鑑賞、チヂンをたたいて出てくる先生の姿に衝撃を受けました。

 内田さん=シマ唄を学び始めて5年ぐらいたってシマ唄と朝崎先生の歌っている歌が自分の中でつながった。

 江草さん=CD「おぼくり」に収録されている嘉義丸の沈んだ日が、自分の誕生日と同じで大阪を出た船が、屋久島を経由し、奄美沖で沈む。自分の大切な場所とつながる。気持ちがざわざわした。取材オッケーをもらうも、先生の顔を見た途端に、涙があふれて止まらなくなった。

 古橋さん=友達から勧められて朝崎さんのCDを買っていた。骨折のリハビリをしようと「十五夜会」に入る。「なてぃかしゃ」は言語化できない感覚ですよね。人によって違うし。だから難しいし、奥が深いです。

 内田さん=シマごとに歌が違うから混乱する。楽譜がないから当然そうなるし、一つの正解を求めるけれど、どれも正解で、それでいいのだと受け入れるのに時間が掛かった。

 伊藤さん=先生は身体の使い方が自然で、個性や思いがそのまま出る。日本人の身体として自然に生きているので、そこにかわいらしさや懐かしさが存在する。私にとってシマ唄は自分の中の自然を取り戻すもの。

 古橋さん=11月のお寺でのライブの感想で「波の音とか、風の音とか、自然の音のように聴こえて涙した」という感想がたくさん寄せられた。

 内田さん=先生の音程を折れ線グラフに出すとすごく複雑、音程を可視化して練習したら近付けるのではないか。

 伊藤さん=分からない人のヒントにはなる。それをつなげて感情とともに出すのは人間にしかできない。

 古橋さん=視覚的に分かると聴き取れるようになるよね。

 内田さん=聴き取れていないものがいっぱいあると思う。

 伊藤さん=先生は自然にできるが、分析してやっていくのはいいかもしれない。解放して声を出していく、研究しながら先生に追いつきたい。

 内田さん=先生の歌は昔のシマ唄だと思っていて、先生はご結婚を機に島を出ているのでいい意味でそこで止まっていて、古いものが残っている人。ピアノの伴奏を付けて、シマ唄を変えちゃったと思っている人がいるようだけれど、基本を変えてはいない。

 古橋さん=唄に対する認識がまるで変わった。僕の世代は西洋的な音楽しか聴いてこなかったし習ってこなかった時代ですが、先生の唄はほとんど西洋的な音楽の影響を受けていない頃の唄。今の自分の音楽の常識というフィルターを外して感じ、理解しないとならなかった。

 勇さん=カーネギーホールの公演の八月踊りメンバーとして声が掛かったのがきっかけでした。初めて聴いたシマ唄が朝崎さんで、衝撃がすごかったです。それから何十年も教わっていますが、まだまだシマ唄の難しい壁が越えられずにいます。師匠は島の歴史を語れる人、島の人も大事にしてほしい。奄美の歴史であるそれぞれのシマの歌を残していかなければ。

2023年12月の奄美日本復帰70周年記念式典・芸能祭で踊りを披露するあけもどろの会、懐かしい歌に会場からは大きな拍手が送られた

あけもどろの会

 朝崎さんの地元、加計呂麻島の花富地区に伝わる八月踊りの伝承をしている。

 朝崎さんの弟子、伊藤宙美さん、江草裕子さんが共同代表になって2023年に発足、月1回公共の施設で稽古、朝崎さんが顔を見せることもある。現在30人在籍だが、平日の昼間ということもあり、一度に集まれる人数は少ないが楽しく活動している。会員募集中。akemodoroamami@gmail.com