地域共生社会は今 福祉の連携⑤

人気商品となっているジェラートの製造風景


インターンシップで受け入れた大学生は自家栽培している作物の収穫作業も体験する

「リワーク」取り組みも
ストレス感じない作業実践

 「いろんな要素で体調を崩してしまうのが利用者の皆さんの課題。特に人と合う、合わないという対人関係が集団生活では大事だけに個人因子(自らの特性)と環境因子(周囲にあるもの)に目を向けている。個人因子は良いところを伸ばす取り組み、職場や家庭、交友といった環境因子では、職場環境について配慮している。職場(あまみん)で心地よく過ごせる環境づくりを意識して」

 田中さんはさらに加えた。「良い感じの自分でいるための生活習慣を作る方法としてWRAP(元気回復行動プラン)というグループワークを進めている。生活習慣の組み立てを自分だけで進めていくと、自分の考え方の癖から逃れることができない。結局自分が正解になってしまう。良い感じの自分であるためには何が必要か。個々よりもグループワークで他の利用者と共同作業、さらにスタッフが入ることで多様性をもって考えることができるのではないか。皆さん頑張り屋さん。ゆえにメンタル面で不調になってしまう。自分の生活で優先すべきことを考えていただきたい。仕事ややりがいも大事だが、まずは健康ではないか。心地よい環境によってメンタル面が安定する」

 田中さんやスタッフが心掛けていることがあるという。作業を日々の変化で比較しない。中長期のスパンで比較する。「日々のでこぼこはあっても、数か月前よりもだいぶ集中できるようになりましたね」。こんな声掛けだ。
 
 ▽省力化・開発

 ストレスを感じない作業。「同じ収益を上げるのなら、上手にできるだけ手を抜こう」として取り入れているのが作業の省力化・効率化だ。例えばハーブティーづくりの場合、ティーバッグに一定量入れるという作業は島外企業に外注している。一方で「自家栽培・無農薬・自然栽培」といった商品価値を高める作業については「自分たちで」を重視している。「外注の金額と商品売上額。もっと売れるようにすれば外注額をカバーできるし、その作業に従事していた人が別の商品づくりに取り組むことができる」と田中さん。

 商品開発では原料へのこだわり(自家栽培等)と同時に、パッケージなどのデザイン、さらにSNSを活用しての情報発信に力を入れている。パソコンチームの腕の見せ所であり、産休・育休中のスタッフもリモートで関わっている。

 開発された商品の販売は事業所内の店舗だけでなく代表の田中さん自らセールスし、土産物販売店、ホテルなどに卸している。「『障がい者の就労支援施設で作っています』よりも、やはり商品の質や開発力で勝負しないと継続して購入していただけない。島外に対しては原料(奄美産)によって他の地域では作れないもの、就労施設としては手作業を多用する良さ(安心感)をアピールポイントにしている」。こうした取り組みによって売り上げを伸ばし収益を確保することで、利用者の工賃に反映させているのだ。

 ▽地域と共に

 あまみんで重ねている取り組み。これを生かす形で田中さんが地域に提案しているのが「リワーク(復職支援・再就職支援)」だ。

 休職に至りやすい精神疾患・発達障がい。課題になるポイントとして意識、知能、思考、認知機能などがあるが、こうしたポイントが分からないと、気付かないし支援の応用が利かない。知識に基づいた観察と対応が必要であり、休職者の支援には専門知識や経験が必要不可欠だ。あまみんの専門職スタッフなら復職支援プラン作成や職場との連携で再就職支援を進めることができる。

 田中さんは「職場から離れている休職中に、『休職者』と『職場』とのすり合わせが可能なのがリワークの強み。休職者の就業準備支援はもちろんだが、職場が求める条件を満たす努力がなければ円満な職場復帰はできない」として、「職場からの条件は直接伝えにくい内容が多く、リワークが間に入ることで円滑に伝えることができる。人口減少でますます深刻化する人手不足への対応としても、地元の行政機関・医療機関・有力企業が率先して活用していただきたい」と強調する。リワークの利用は休職者本人だけでなく職場を守ることにもつながりそうだ。

 これも地域との共生だろう。食品加工という産業に関わっていることもあり、関係する学科がある大学学生のインターンシップを3年前から受け入れている。今年度の夏は四つの大学からの受け入れ実績があり、「地元に大学がない関係で奄美には18~22歳の年代が少ないだけに、受け入れることで新しい知見として周囲に刺激を与えている。今後も継続して地域づくり、まちづくりに役立つよう行政との交流も図っていきたい」。敷地内に宿泊施設があるのも強みだ。

 あまみんで進められている農福連携は、障がい者の就労支援を通して地域が抱える課題解決にも道筋を刻もうとしている。

=おわり=

(徳島一蔵)