タンカンのJA共販量、選果委託量低迷の背景について語る平井孝宜さん(奄美市名瀬の本茶地区にある果樹園で)
県大島支庁が年1回発行する報告書に『奄美群島の概況』がある。統計資料などを通し現状を把握することができるが、最新は昨年発行された2023年度版だ。掲載されているのは21年度の状況。農業をみてみよう。主要作目の生産実績のうち間もなく収穫期に入る特産果樹タンカンの生産量は群島計で1092㌧もある。19年度以降の推移をみても3年間いずれも1千㌧を超えており、最多は20年度の1694㌧だ。
平地が少なく山地がほとんどの奄美大島では山間部でタンカン栽培が盛ん。温暖化で夏場を中心に気温の上昇が著しい中、果実外観の紅乗りや糖度の上昇など冬場の仕上げ時期、寒暖差のある山地が適地となっている。そんな奄美大島の21年度生産量は777㌧で、群島全体の7割を占める。
年間平均で700~800㌧台とされる奄美大島の生産量。これが奄美市名瀬にある奄美大島選果場に持ち込まれたら、同選果場開設当初の目標に掲げた「462㌧」は軽くクリアできる。選果場には果実1玉ごとに糖度やクエン酸など内部品質が瞬時に測定でき、外部の傷を測定する機能もある光センサーが備わる。この選果機があるのはここだけで奄美群島振興開発事業(国・県が補助)を活用し整備された。光センサーを通しランク付け(秀・優・良)された商品は「品質が保証されたもの」として消費者に提供される。品質が一定として「間違いがなく安心」と判断されるはずだが、生産農家の選果場への持ち込み量は一度も目標に達していない。
24年度産はどうなるだろう。選果場を管理運営するJAあまみ大島事業本部は今月14~16日、支所別に出荷販売対策会議を開いた。この中で奄美大島全体の取り扱い目標が明らかにされた。JA共販量は61㌧(23年度実績79・67㌧)、選果選別のみを行う委託計画量は138㌧(同163㌧)となり、いずれも前年度実績を下回る上、共販と委託を合わせても約200㌧しかない。このままでは生産されたタンカンのほとんどが光センサーを通さず、品質保証されていないものが島外にも出回ることになる。
背景にあるのが今年度産タンカンの品質低下だ。夏場の高温、秋の降水量の多さ、冬場の曇天・日照不足といった気象条件により酸が最初から低く、糖度が伸びていない。こうした気象条件下で「摘果により2Lサイズの果実を生産したのに糖が低い。1月でも10度に達しない」という悲痛な声も農家から上がる。JAの出荷規格基準では、10度以下は規格外品扱いとなる。
JAの奄美市果樹部会長で専業農家の平井孝宜さん(43)は「過去5年間で比較しても今季は品質が特に低い。本来なら光センサーを通すべき。だが、内部品質の状況から良品にも達せず、行政の使用料助成金を受けることもできない外品扱いになる果実が多く生産される可能性がある。収益の面から経営を考えると、選果場に出さないという出し控えも理解できないことはない」と語る。
物価高が示すようにさまざまな資材が高騰している中、生産したタンカンを加工品扱いではなく販売品として値を付けて売りたいという農家の姿勢が出し控えを生む。奄美大島の選果体制は一元化されていない。地元市場には選果場(光センサー)を通さないものも持ち込まれる。果実一つ一つの内部品質ではなく外観で値が付けられることがあるだけに、品質低下の評価を避ける方法として選果場ではなく地元市場を優先する選択が十分に考えられる。
平井さんは語る。「タンカンの果実分析は10月から行っている。11月には糖が上がらない状態が把握できたはずだ。この段階で周知を図っていたら、改善策が見いだせたのではないか。光センサー付きの選果場は『農家を守る』機能のはず。ところが品質評価の結果で、農家が守られないという事態になってしまう」。タンカンの果樹園は適地の上場だけでなく下場にもある。気象条件による品質低下は一過性のものではなく今後も続く可能性がある。品質面を改善、向上させる方策はないのだろうか。
平井さんは「肥培管理の在り方を再考する必要があるかもしれない。化学肥料の割合を減らし、有機質肥料の割合を多く取り入れることで、植物の根幹である土と細根を作り、今後の気候変動に対応していくことが求められるのではないか」と指摘する。
県大島支庁農政普及課が作成した資料でも肥培管理について有機配合肥料や堆肥(たいひ)の投入を挙げている。選果場への持ち込みから見える出し控えを直視し、品質低下の改善策へ踏み出したい。それが量の確保につながる。
(徳島一蔵)