悪石島のボゼが怪しく動く写真パネルを手にする黒岩さん(左)。後ろには奄美2点の写真
5年ほど前に撮影した「油井の豊年祭」の一コマ
2題目。1月17日から2月6日まで富士フィルムフォトサロン東京スペース3で開催されているカメラマン、黒沢正和さんの「島魂」(TOUKON)島人たちに受け継がれる祭りの写真展を見た。黒沢さんは22年間、国内の有人島400島に1600回ほど訪れて祭りを撮り続けている。
黒沢さんの写真展の紹介パンフ。メインビジュアルを飾っているのは鹿児島県トカラ列島・悪石島の奇祭ボゼ。宝島に続いて行きたかった悪石島のボゼは、旧暦の7月16日にボゼという来訪神が悪霊や村人の汚れを払ってくれる伝統行事。2019年にユネスコの無形文化遺産に登録されている。大きな耳・目・口そして長い鼻の珍妙な仮面をかぶり、ビロウの葉で身体を覆ったボゼを写しとった写真は圧巻。魅せられた。見開きには見覚えのある龍郷町秋名の「平瀬マンカイ」の写真が紹介されていて、六本木の会場に訪れた。
18日には村上仁一さん(合同会社PCT、雑誌「写真」編集長)とクロストークが行われ、「思い出があるものを展示」した写真の紹介が行われた。春・夏・秋・冬の4テーマで展示されている秋の中に奄美の写真「平瀬マンカイ」と「油井の豊年祭」(瀬戸内町)2点。男の子がまわし姿で出番を待つのを撮ったのは5年ほど前。「名前はわからないけど、高校生ぐらいになっているかもしれない」と黒沢さんは説明。島に行き続けていて、わが子には顔を忘れられたことがあると自身のことを話して失笑した。
黒岩さんは、和歌山県出身。猿岩石に憧れてバッグパッカーに。アジア、特にベトナムなどが元気だ─―と訪れたが、日本のバブル崩壊。海外ではなく日本を見てみよう。海の外なら「島めぐり」だ。それなら和歌山から始めよう。地元の島・紀伊大島から島めぐりが始まり、「知らなかった・・違う一面を見た。知らない文化があるんだ」と、はまっていったという。
まずは、島に訪れても写真撮影はせず、取材のみ。島の人たちと知り合いになってから祭り情報を仕入れ、再訪して撮影に入るという。たとえば鹿児島・下甑島のトシドンは大晦日(おおみそか)の夜に行われる日本版サンタクロース。伝統行事の撮影前には事前に説明会が開かれる。「フラッシュたくな。行事中フラッシュ撮影禁止」。
島根県の島後「隠岐の古典相撲」はいつ行われるか分からない珍しい祭り。島に祝い事がある時のみ徹夜で行われる。昨年行われることを知り、スケジュール調整して撮影に向かった。「すごい量の塩をまく。カメラが塩で壊れてしまった」らしい。また、ボゼについては、「なくなった祭りなどもある中で、島人たちは移住者にも祭りの継承を行っている」と新しい試みも紹介。
また、思い入れのある写真として宵宮(よいみや)であばら骨を折った姫路の家島天神祭の写真を説明。「神が通る道を清めるためにカメラマン関係なく殴り合う。肋間(ろっかん)神経痛と思ったら折っていた」と手荒い祭りの洗礼も受けたようだ。
会場には多くの参加者が訪れ、活発な質問が交わされた。黒岩さんは22年間撮り続けた写真を『百島百祭』(光村推古書院刊4950円」として出版。「今回は一つの区切りとして祭りの写真展と写真集にした。今後は、なくなっていく祭りもある中で、記録として島の祭りを残していこうという使命感が出てきた」と島魂をみせた。
同写真展は2月21~27日まで富士フィルムフォトサロン大阪ホワイエでも開催予定。