慶大橋口研究会

安田壮平市長を前に3年生が「奄美大島の地域振興の課題」についてプレゼンテーションを行った(21日、奄美市役所)


来島し奄美市役所を表敬訪問した慶応義塾大学経済学部の橋口研究会(前列左が橋口勝利教授、後方が取材に取り組んでいる学生)。安田市長の発案で干支(えと)にちなみ“ハブポーズ”

将来像探る奄美大島でも
奄美市長に発表、意見交換
2次産業振興で伝統産業着目

 地域経済史、まちづくりなどをテーマに研究している慶応義塾大学経済学部の橋口勝利(かつとし)研究会は徳之島に続き、奄美大島での調査に取り組んでいる。20日に来島、取材を開始しており、21日は奄美市役所を訪れ、安田壮平市長を前に発表や意見交換を行った。奄美大島の現状分析から第2次産業(製造業)振興の必要性を挙げ、大島紬や黒糖焼酎といった伝統・地場産業に着目している。

 徳之島での調査研究は2021年度から開始し昨年、これまでの活動をまとめた研究報告書『慶大生が見た奄美徳之島―子宝の島の未来像―』を作成するとともに、地元への成果報告会をしている。橋口教授は「徳之島に続き今年から奄美大島での調査研究に取り組む。両島を比較しても地域産業の特性が異なる。5~10年ほどかけて今後も他の島でも同様の取り組みを進め、慶大生の視点で奄美群島の将来像を示していきたい」と語った。

 奄美大島取材で来島した学生は4年生4人、3年生5人の計9人。黒糖焼酎の蔵元、奄美群島広域事務組合、観光物産協会、地元経済関係者、行政機関、医療機関、世界自然遺産関係施設などを対象としている。このうち市役所では安田市長を表敬訪問。市長に対し、奄美徳之島班3回生(前田拓見班長)が現地での取材を前に行った事前調査に基づき「奄美大島の地域振興の課題―第2次産業・伝統工芸に注目して―」を発表した。

 この中では生産額から見た産業構造の比較として「徳之島は基幹産業のサトウキビを始めとした農業の1次産業が盛んだが、奄美大島は観光業などの3次産業(8割近く)、2次産業(2割近く)の割合が高く、1次産業(5%弱)の割合が低い」とした上で、「3次産業は外的要因(景気変動・新型コロナなど)の影響を受けやすい。これに対し地域に根差した産業を育成することで、安定した収益が確保できるのではないか。2次産業振興の方向性にかじを切った」と説明。大島紬や黒糖焼酎に着目し、施策提案では「島おこしインターンシップ」など後継者不足解消取り組みの認知度向上、需要拡大では付加価値を付けて高単価による海外市場開拓などを挙げた。

 安田市長は「産業構造は歴史をさかのぼって考えることも必要。復帰後は1次産業が盛んだったが、その後は大島紬、そして新たな産業として観光業、奄美群島振興開発事業により建設業が盛んになった。現在はサービス業として医療福祉の割合が多くなっており、特に名瀬地区は商業(卸売・小売など)が活発」と述べ、観光業への視点では「すそ野が広く1次産業や伝統産業など地場産業とも結びついている」とアドバイス。大島紬の将来展望では「生産量はピーク時と比較して大幅な縮小が続いているが、高級品など品質が高いものは売れている。島内にも富裕層向けの宿泊施設が増えつつある中、大島紬を活用したインテリアの取り入れなどはビジネスチャンスになるのではないか」と指摘した。

 安田市長への発表、意見交換を終えて前田班長は「これまで2年間は医療について調査研究してきたが、伝統文化をテーマにしていくにあたり市長さんから貴重な意見をいただいた」と振り返ると同時に、「首都圏出身の学生が多い中で自分は地方(富山県)出身だが、奄美大島は島の皆さんが優しく、ゆったりとした雰囲気がある。自然など景観の美しさが印象的」と語った。