地上12階建ての高層ホテル建設が計画されている海沿いの私有地
県道空港線を挟み奄美パーク側の駐車場用地。ホテル建設に伴う交通量の増加で子どもたちの通学への影響が懸念されている
奄美市笠利町節田の県奄美パークに近い海沿いの私有地に計画されている高層ホテル(12階建て約40㍍の高さ)建設。5日夜に企業側による初めての住民説明会が開かれたが、説明後の質問・意見交換の中で、出席した住民から「反対でも建てるのか」との問いに対し、企業側は「ホテルによる事業性、地域貢献できるという考えから、建設していく予定に変更はない」と回答した。説明、質問(意見)・回答に分けて詳細を掲載する。
説明会を開いたのは、ホテル新築事業の事業主・奄美笠利町合同会社(特別目的会社で、不動産の総合的運用、運営、管理は資産運用会社の㈱アヴァルセックに委託)、運営会社(㈱レンブラントホールディングス)、設計会社(㈱コイケデザインワークス)。節田小学校体育館が会場となったが、同校区の4集落から住民約130人(名簿記入者、企業側発表)が出席した。
ホテル概要設計=敷地面積1819・26平方㍍(約560坪)、建築面積1210・48平方㍍(約370坪)。敷地に対し約66%の建物の大きさ。都市計画区域外で、県道奄美空港線の海側にホテル、奄美パーク側に駐車場。用途はホテル、レストラン、公衆浴場、プール。ホテル延べ床面積8746・07平方㍍(約2600坪)。客室64室、スイートルーム53室、DXスイートルーム9室、ユニバーサルルーム2室。構造は鉄筋コンクリート造り地上12階建て。規制の高さ49㍍に対し建物最高高さは40・448㍍。
景観イメージ(昨年、奄美市景観審議会において有識者に説明したものという図を示す)=高さは用安集落を抜けた辺りからの風景の場合、ちょうど奥に白い建物(計画しているホテル)が見える。左側が奄美パークのレストラン部分の屋根、右側に計画している建物でほぼ同じ高さ。この建物が一番目立つとはならない。
駐車場の安全性=ホテル、駐車場間には横断歩道を設置したい。関係機関との協議により「ホテル建設工事が完了して、人の往来がある程度発生した時点で許可申請が可能になる」との指導をいただいた。事業主である、こちらが費用を負担して横断歩道設置を検討している。歩行の安全面ではさらに警備員を配置して対策を取りたい。
雇用=地域の方に勤めていただきたい。部屋単価を高価格で設定しており、鹿児島県と東京都の最低賃金の格差を埋めるぐらいの給与水準を提供する。高待遇により、ここで働きたいというホテルを目指す。県外から移住して勤めていただくことで、移住者を増やすきっかけにしたい。
SNS(インターネット交流サイト)記載=齟齬がある。ペーパーカンパニー(事業主)ではない。特別目的会社という仕組みを使ったものであり、合同会社がホテルを建てる、そこから賃料を受け取る、それを投資者に配当する。
住民説明会を「こちらから開かない」とは言っていない。
設計変更を一切できないことはない。着工後であっても変更申請を行い、変更することはある。
部屋単価は1泊6万~10万円を予定しているが、複数人で利用できる広さになる。地元の皆さんが利用できる価格設定(1万円余り)も検討している。
―放水は海になるのか。高濃度塩分の放水で海の汚染を招くのではないか。
「処理水は海洋放水になる。2倍程度の塩分濃度。こうした濃度の海洋放水により微生物がすめなくなったという事例を聞いたことはない。心配ならば、もう少しアセスメントを進めて説明させていただく」「プールの水は浄化槽に流そうと考えていたが、保健所の方から『それは逆にやめてください』と言われた。海洋放水するが、周辺にある他の宿泊施設や学校のプールも全て同じ方式で処理していると聞いている。基本的に循環装置を使い、清掃するタイミングで年に1回程度の海洋放水となる」
―なぜこの集落で、しかも狭あいな敷地にホテルを建設するのか。
「事業性がある、宅地造成されているので自然を破壊することがない、地域への貢献を念頭に置き土地を取得した」「空港、群島の観光拠点施設・奄美パークの間の立地はホテルオペレーターにとって魅力的。空港、奄美パークいずれも大きな人工物であり、それがある所に建てることで、あまり異様に映らないのではないか。自然に溶け込んだデザインを採用することによって障害物にならないのではないか」
―建築期間中に近隣への被害(騒音、強風により関係資材が崩れての飛来など)が発生した場合の対応は。
「建設会社が説明する案件だが、途中に風などによって私有財産を破損した場合は真摯に対応し補償させていただく」
―子どもたちの通学への影響、多くの観光客が訪れ宿泊することで治安が悪化する不安がある。
「先に説明したように横断歩道は事業者の費用で設置を検討している。警備員も配置して安全面を確保する。40~50歳代の主にカップルや家族連れ、夫婦を対象に集客するなど安心できる客層を考えている。また夜間まで利用できるレストラン、さらに小さなコンビニも設け、食事や買い物で周辺に外出することなくホテルで過ごせる環境にしていく」
―地域住民が反対でも建てるのか。
「事業性から地域に貢献できると考えており、ホテルを建設していく予定に変更はない。地域社会貢献は自己満足にならないよう、地域の皆さんも利用できる(数人で宿泊できる価格設定、レストランでの食事も提供)ようにすることで、いい企業が来た、いいホテルができたという形になるようにしたい」
―計画への説明を聞くと相当の出費となる。採算面から稼働率はどう考えているのか。
「夏場などのハイシーズンは80~90%程度、ローシーズンは20~25%程度、通常は60~65%程度で収益が上がる価格帯。部屋も60~75平方㍍と広くしていく」
―高さ(約40㍍)に対し、非常に問題があるという意見が多く寄せられる。近隣3世帯への配慮の面からも低層化できないのか。設計変更してほしい。
「ホテルの低層化については『分かりました』『そうします』とはいかないことを、ご理解いただきたい。今回いただいた意見をより真摯に受け止め、社に持ち帰り役員に説明し、その結果を住民の方々に必ず伝え何らかの打ち合わせができれば。今はできないが必ず回答していきたい」
企業が地域に進出する。メリットとして、その地域に新たな雇用が生まれることがある。自治体側によっても企業進出は、税収(固定資産税など)確保につながる。さまざまな産業への波及効果から「トータル産業」と呼ばれる観光産業の場合、観光客を受け入れる施設整備を目指す企業の進出は、国内外から訪れる観光客の消費によって多様な業種に収益をもたらす。
そんな観光産業で新たな動きがある。2023年6月から8月にかけての近隣住民、集落代表などへの企業側の説明で表面化した奄美市笠利町節田に計画されている高層ホテル新築事業。関係行政機関への必要な手続きを経て当初は先月下旬に地鎮祭、今月着工が示されたが、いずれも延期となり、今月5日に節田小学校校区の4集落(節田、平、土浜、和野)住民を対象とした初の住民説明会が開催された。
午後7時から始まり、2時間の予定が10時過ぎまで続いた。出席した住民の質問・意見が繰り返されたからだ。景観、環境、安全など日常の暮らしへの影響・不安から住民側は「反対」あるいは低層化など「計画の再考」を求めた。これに対し企業側は雇用面だけでなくホテルがもたらす事業性(横断的な波及効果)から地域振興・貢献に果たす役割を強調した。
世界自然遺産に登録された奄美大島で観光産業への期待は大きい。自然、さらに文化への関心で来島する観光客を受け入れる宿泊施設は観光産業の中核を担う。それだけに地域に向き合う姿勢が欠かせないのではないか。住民が納得できないまま計画を強行しては大きな溝を生み、企業側にとってもデメリットしかない。住民との合意形成に向けたプロセスを重視すべきだ。徳之島に続き奄美大島でも調査研究活動を行っている慶応義塾大学経済学部の橋口勝利教授は「地域の理解を図っていくためにも住民から寄せられた意見に対し、解決に向けて取り組む姿勢を。地域と一体となって事業を進めなければ継続性は見込めないし、ホテル進出による相乗効果を生み出せない。地域との共存共栄へ踏み出してほしい」と語る。
感情的な対立を避け、対話を重ねることが共存共栄の一歩だ。これからの企業進出、観光産業の在り方を考えていく上で自治体側も関心を持ちたい。事業化で必要な手続きの窓口となるだけでなく双方の調整、さらに海外を含めた事例を参考に必要なルール整備に乗り出したい。奄美群島観光戦略への「新たな一石」との認識に立てるかだろうか。
(徳島一蔵)