戦争遺跡の地表面可視化

上空からのレーザーを使った高精度な計測により明らかになった戦争遺跡の地表面を確認する瀬戸内町教育委員会の鼎丈太郎主査(右)、計測やデータ処理にあたったヤマハ発動機の横山洋祐さん、瀬口栄作さん(13日、埋蔵文化財センター)


ドローン(産業用無人ヘリコプター)により上空から戦争遺跡を計測した=瀬戸内町教育委員会提供=

ドローン使いレーザー計測 機銃陣地、軍道など把握
瀬戸内町教委 加計呂麻島で

 瀬戸内町教育委員会は、ヤマハ発動機㈱(本社・静岡県磐田市)の協力により加計呂麻島にある2か所の戦争遺跡で、ドローン(産業用無人ヘリコプター)によるレーザー計測を行った。上空から斜めに照射することで樹木の下の地表部分までレーザーが届き、それによって覆われた樹木などが取り除かれ、地表面の状態を可視化。機銃の陣地、軍道などの把握につながっている。

 使用したドローンは同社が森林資源量調査のために商用化したもの。ヘリ状で、プロペラを広げた時の直径は3665㍉。ヤマハからは来島した4人が計測作業を行い、フライトのほかデータ処理にあたった。

 計測したのは瀬相(せそう)エリア(約30㌶)と安脚場(あんきゃば)エリア(約45・92㌶)。瀬相には旧海軍・大島根拠地隊の編成部隊だった大島防備隊の施設「大島防備隊本部」の跡がある。集落の東側の対岸、山に囲まれた平地一帯を中心に広範囲につくられ、戦闘指揮壕、弾薬庫、浄水場などが残る。安脚場には砲台跡があり、砲座や砲側庫などが残っている。

 瀬相では7日に計測。ドローンに搭載した装置から毎秒75万発のレーザー(人体、動植物には無害)を照射したが、フライト回数は2回で1回あたり約60分行った。安脚場は8日に2回、9日と11日に1回ずつ計4回フライトした。風雨など気象条件により計測できない日もあった。

 1平方㍍あたりの情報取得点数は、ヤマハの場合3000点(超高密度点群)と、通常電動ドローンの100点に比べ高精度な計測を可能とした。計測、データ処理にあたった同社森林計測部の横山洋祐さん、瀬口栄作さんは「低空(対地高度150㍍未満)で飛行し、上空から地上へレーザーを照射したが、これにより樹木の下の地表部分の情報を入手することができた」と説明。町教委埋蔵文化財担当の鼎(かなえ)丈太郎主査は「瀬相のデータから機銃の陣地、軍道が把握できる。機銃による穴なのか、爆弾によるものかまだ判別できないが、攻撃を受けたとみられる跡が確認できた」と話す。文献史料や古写真から瀬相湾では、80年前の1945(昭和20)年4月1日から翌日にかけ、大島輸送隊(輸送艦)と米軍機による激しい戦闘が行われたとされ、こうした戦闘がデータで裏付けられたことになる。

 鼎主査は「ドローンを使うことで広範囲にわたり計測でき、少ない労力で詳細なデータが取得できる。瀬相の大島防備隊本部跡は山の上に機銃の陣地があることはこれまでも分かっていたが、調査できず、どの位置にあるか把握できてなかった。今回のレーザー計測により把握できたことから今後、現地での照らし合わせなど確認に取り組みたい」と語った。データ処理担当の瀬口さんは「まだ速報の段階。精緻(せいち)化に取り組み、今回の計測調査の成果を報告したい」と述べ、地表の状態が把握できることで崩れた箇所も分かり、状態の変化がつかめるという。貴重な戦争遺跡の保全に役立てることもできそうだ。