有盛神社境内の森林でサンプリング調査を行う名古屋工業大学の庄准教授(左)と弓場さん
名古屋工業大学の庄建治朗准教授らは29日、奄美市名瀬浦上町にある有盛神社境内でウンテラ松の年輪のサンプリング調査を実施した。過去200年の気候復元が目的で、最終的には梅雨前線の時期ごとの位置の変化を特定する研究につなげたい考えだ。これまでの調査では、江戸時代後期に発生した天保の大飢饉が奄美と本州では状況が異なる可能性も浮上してきた。庄准教授は「本州と比較しながら、長期的な気候変動の解明につなげたい」と意欲的だ。
庄准教授らは、松くい虫被害によって伐採されたリュウキュウマツ(朝仁の千年松)の調査を機に、2017年3月に奄美大島に訪れた。樹木の年輪に反映される降水量を測ることで、気候変動の手掛かりとなる気象代替データを蓄積し、長期的な変化を調べている。
有盛神社での調査は3年目で、1年間の年輪形成が始まる成長開始期(早材)と終了期(晩材)の特定が目的。有盛神社では、枯死した樹齢約200年のウンテラ松2個体からもすでに標本を採取しており、奄美の台風と降水量の相関性を指摘する論文も発表している。
発表したリュウキュウマツの年輪に関する論文では、天保の大飢饉にあたる1830年代の降水量を本州と奄美で比較し、その違いに言及している。本州中部のヒノキでは、飢饉の要因となった長雨を示唆する変動が酸素同位体比の分析で一致したものの、奄美のリュウキュウマツでは見られなかった。庄准教授は「奄美の天気は良かった。もし飢饉があったなら、本州と状況は異なる。干ばつなどの要因も考えられる」などと推察する。
この日は、社会学科環境都市分野4年生の弓場翔太さん(22)と2人で来島。樹齢30~40年の8本のウンテラ松の幹から、成長錐(すい)と呼ばれる調査器具を使って標本を採取した。
庄准教授は「本州を含む調査から、過去200数十年分の月単位のデータは出つつある。特に梅雨前線の連続した経年変化をしっかりと出していきたい」と話した。
今後は、この夏の調査を最後に、論文をまとめる作業に入るという。

