学び舎が奪われる事実を知り、村長らに真実を明るみにするよう娘が訴える場面
劇を終え劇団群島メンバー・関係者たち
昨年2月、36年ぶりに復活を果たした、島民らでつくる演劇サークル「劇団群島」(森和正代表、団員12人)の新作公演「泉の聖女~軍の要塞と白亜の殿堂~」が12日、奄美市名瀬のアマホームPLAZAであった。昭和初期の奄美大島を舞台にした物語で、観客153人は迫真の演技に見入り、忘れつつあるカトリック教徒迫害の歴史や、白亜の殿堂と呼ばれた大島高等女学校が廃校に至るまでの裏面史に固唾(かたず)をのんだ。
劇団は1970年頃、大島高校の生徒やOBらが集まり旗揚げ。生活環境の変化などから88年の舞台を最後に休止していたが、21年に稽古の拠点となる市民交流センター(同PLAZA)が完成し活動を再開。24年2月の公演「格子なき牢獄(ろうごく)」で上演復帰した。
脚本は、愛知県在住の劇作家で奄美2世の布藤聡子さん(46)が手掛けた。宮下正昭氏著『聖堂の日の丸』に触発を受けて、史実を基に創作。教育委員会を通じて目にした森代表(72)が打診し、演じることになった。
物語は1933(昭和8)年、役人が軍から預かった機密文書(地図)を無くした場面から展開する。役人を守るために、村長や議員、新聞記者らが集まり、女学校の校長で宣教師だった神父に責任をなすり付けようと画策。戦時色が濃くなる時代背景の中、信徒迫害や女学校廃校までのてん末を会話劇で描いた。
上演は、森代表演じる村長の家を舞台に、議員や新聞記者、女学校に通う村長の娘らの緊迫するやり取りが、長回しのセリフとともに演じられた。芝居を見終えた観客からは「迫害の経緯がよく分かった」「内容・演技ともに素晴らしい」といった声も出た。
初舞台だった村長の娘役の林彩乃さん(33)は「最後は感極まったが、やり切れた。上下関係のない劇団で、楽しく演じることができた」と仲間に感謝。森代表は「忘れ去られた歴史を若者に伝えたかった。これからも島の民話や伝説なども題材にしながら、奄美の歴史を伝えていきたい」と笑顔だった。
上演は、12日1回、13日2回の計3回公演で行われた。