西古見砲台跡の第2観測所内で顔料の分析調査を行った、(右から)筑波大・松井敏也教授、橿原考古学研・河﨑衣美主任研究員、機材協力したエス・ティ・ジャパンの内田正幸さん(瀬戸内町教育委員会提供)
瀬戸内町にある国指定史跡「奄美大島要塞(ようさい)跡」(近代遺跡)の一つ西古見砲台跡には、大島海峡西口の島々などを描いた絵図が残る。専門家によって絵図の顔料分析が進められており、どのような色材が使用されているか探るためで、今後の修復保存に役立てられる。
今年1月下旬、現地で調査を行ったのは、保存科学の見地から文化財保護・修復の共同研究を行う筑波大学芸術系の松井敏也教授と奈良県立橿原(かしはら)考古学研究所の河﨑衣美主任研究員。今回の調査では分析機器商社「エス・ティ・ジャパン」が機材協力した。
絵図が残るのは第2観測所。町教育委員会によると、標高約110㍍地点の尾根筋上にあり、海峡入り口や東シナ海を眺望できる。構造は鉄筋コンクリート造り2階建てで、1階に観測具を置いた円形台座と観測用窓があり、窓上部壁面に島々や島名、距離などが鮮やかな色彩で描かれている。顔料分析をしている河﨑主任研究員は、2023年3月、24年2月、そして今回と計3回現地入りし絵図の色材調査を実施してきた。
分析は、▽表面状態の分析(デジタルマイクロスコープ観察)=顔料粒子の色や大きさ、形状など解明▽元素分析(蛍光X線分析)=無機顔料や下地材料など解明▽化合物分析(赤外分光分析とラマン分光分析)=有機顔料や接着剤、下地材料など解明―という三つの方法によって。現在、分析から得られた個々のデータを解析するとともに、総合的に検討し、どのような材料が使用されているのかを推測する作業が進められている。
河﨑主任研究員は「古代や中世の遺跡なら特徴的な顔料があるが、近現代になると有機物も含まれ、解析にあたっては情報の蓄積が必要。絵図を描くにあたり、どのような色材を使ったか。軍の設備であり、使用していた塗料なのか。それとも一般的な絵画作業で使うものなのか。明らかにしていきたい」と話す。分析結果の学会発表については、今年7月5、6日に九州大学で開催される日本文化財科学会第42回大会で、「西古見砲台跡(奄美大島要塞跡)に使用された色材のオンサイト分析」のタイトルでポスター発表を行う予定という。
絵図の顔料分析について町教委埋蔵文化財担当の鼎(かなえ)丈太郎主査は「どのような材料を使い、絵を描いたか色材が明らかになれば、絵図が劣化した場合でも状態に基づいた形で修復保存が可能となる。文化財としての価値を維持することができる」と期待する。