夜間に撮影されたタンカンの幼木を食べているアマミノクロウサギ(髙山耕二氏提供)
生命の歴史から考えると現在は6回目の生物の大絶滅の危機を迎えているといわれています。過去5回は自然現象が絶滅の原因と考えられていますが、6回目は人類の活動による環境破壊が原因と考えられています。国内においても多くの生物が絶滅の危機にあります。絶滅の恐れのある野生動植物に関する法律「種の保存法」に基づくと、人為的な影響により存続が脅かされている国内の希少野生動植物種として458種が指定されています。これらの生物が生息する生態系では多様な生物間の相互関係が存在しており、これが生態系の健全さに大きく寄与し生物多様性を高く保つ基盤になっています。そのため生態系の構成要素の一部である希少種の数の増減と絶滅は生態系の健全さだけでなく、同じ生態系に生息する生物にさまざまな影響を与えます。
2021年に世界自然遺産登録された奄美大島と徳之島に代表される奄美群島は生物多様性が高く、変化に富んだ地形の中に多くの希少種が生息しています。奄美での希少野生動植物は38種といわれています。奄美群島の島々では、それぞれの島の陸上面積が小さく野生生物が生息する自然環境と人間が生息する場所が隣接しているため、人と自然が非常に密接で繊細な関係性が存在しています。
奄美群島は国立公園に指定され、世界遺産登録されたことにより、野生生物と自然環境の保全・保護が進みつつあります。奄美大島に導入され希少種に多大な影響を与えてきたマングースは2024年9月に根絶が宣言され、ノイヌやノネコを代表とするその他の外来種においても対策が進みつつあります。このような状況を迎え、絶滅が危惧されていたアマミノクロウサギや他の多くの希少種で個体数の増加や分布の回復が報告されています。一方で、個体数が回復した希少種の生息域と人間の生活空間、そしてお互いの活動時間が重なることが多くなり、近年は人間と希少種の間でさまざまな問題が発生しているのが現状です。
問題の一つとして、道路に出てきた野生生物が自動車にひかれるロードキルの問題が挙げられますが、関係者の努力により本問題は広く島民に周知されさまざまな対策が構築されつつあります。近年注目されている問題として希少種による農作物への被害が挙げられます。しかし、この被害の現状はあまり知られておらず、対策も構築されつつありますが、課題も多いといえます。
希少種による農作物被害対策を一層進めるためには、本問題を広く奄美群島の皆さんに知ってもらうことが重要と考え、本件についての新聞連載を関係者と共に企画しました。本連載には研究者や国と県の行政官、農家という多様な立場にある関係者が執筆者として参加します。奄美群島において固有種かつ希少種であるアマミノクロウサギの話題を中心に、それぞれの立場から希少種の現在、そして農作物被害の現状と影響、その対策の取り組み状況などについて執筆していただき、本問題を整理したいと思います。読者の皆さんには本連載を通し奄美での希少種による農作物被害の現状と課題を理解していただき、奄美群島という小さな島々で人と希少種が「共生」するためにはどのようにしていけばよいのかを共に議論する一歩に本連載がなればと思います。