鹿児島大学農学部・香西直子准教授による放送大学の公開講座「熱帯果樹」の中ではアマミノクロウサギによるタンカン食害も課題として挙がった
国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギによる農作物被害。年々増加しており、特産果樹タンカン食害では「一番栄養がある」とされる皮の部分がかじられることで、幼木では枯れる被害が出ている。多くの樹木がある中、「なぜタンカンに食害を与えるか」について大学での調査研究が進められている。
1日に県立奄美図書館であった放送大学鹿児島学習センター(高津孝所長)の公開講座で、講師を務めた鹿児島大学農学部の香西(こうざい)直子准教授が報告した。香西氏は愛媛大で農学博士号を取得。2017年から鹿大に赴任しており、奄美でも調査研究を行っている。
「奄美群島における熱帯果樹」と題した講座では、タンカンについて香西氏は「味が濃く甘みが強く、温州ミカンよりおいしい果実」と奄美での現地授業を受講するため全国から来島した登録学生20人(うち1人は地元)に紹介。奄美大島では1977年から生産されているが、全国の生産量のほとんどを鹿児島県産(3085㌧)が占める中で、奄美群島の生産量は1145㌧(いずれも果樹生産統計資料、25年)で、県栽培面積の54%を占め「奄美が適地。最近ではネットによる通信販売も行われており、出荷先では関東方面が一番多いが、次いで関西方面、県本土と全国に奄美のタンカンファンがいる」とかんきつ類の中での人気の高さを強調した。
取り組んでいる研究で報告したのが、アマミノクロウサギの数の増加に伴い増えている農作物被害。市町村報告に基づいた被害額は17年で77万円だったのが、4年後の21年には6・8倍の522万円に急増。22年743万円、23年983万円と1千万円に達する勢いで上昇している。香西氏は農作物被害ではタンカンについて触れ、「枝や幹、葉も食べる。幼木の皮の部分がかじられることで、大きく成長することなく樹木が枯れてしまう」と被害の深刻さを指摘。「タンカンをいかにクロウサギから守るか。いろんな樹木がある中で、なぜタンカンを食べるのかまだ調査中。具体的なデータにはつながっておらず、調査を進めているところ」と述べた。
奄美新聞の取材で生産農家によると、かんきつ類ではタンカンだけでなく津之輝(つのかがやき)の樹木にも被害が確認されているという。
香西氏の講座では奄美で栽培されている熱帯果樹の課題としてタンカンの食害だけでなくマンゴーも取り上げた。国内で普及しているアーウィン品種の場合、花芽分化は20度以下の気温で促進されるため、出荷は主な産地のうち最北部の宮崎県が最も早く、次いで鹿児島県、最も遅いのが沖縄県。温暖な奄美群島などの島嶼(とうしょ)部では開花が遅く、収穫時期も遅い場合が多いことに加えて「花が咲かないままシーズンが終了したり、パラパラと咲くため一斉出荷ができない」という問題を抱える。
香西氏は「タイなどもっと気温が高い所でもマンゴーは栽培されている。低温を必要としない、乾燥ストレスによって花芽が形成されタイの品種(ナンドクマイ)などアーウィンだけでなく他の品種も作ってはどうか」と提案した。