「共生」を考える 希少種による農作物被害の現場から 4

ワンウェイゲート(写真:1)

幼木の保護(写真:2)

共に生きる道模索を
タンカン樹皮食害現地から㊦ 大海 昌平(果樹農家)

 「ウサギが侵入防止柵の内側にいるかもしれない」
 そこで、当初は中にいるウサギを外へ逃がすことを考え、出たら入ってこられない筒状のワンウェイゲート(写真:1)を1圃場に2個設置した(何の根拠もないが)。カメラを鈴木さんに設置してもらった結果、外へ出ていく姿は確認されたが、それでも園内のウサギの糞量や食害は減らない。果樹園は肥料をやって草を育てているようなもので、また果樹園の法面の土は軟らかく掘りやすいときている。ウサギにしてみれば天国だろう。出ていく理由がないのだから。何とかしないと食われ放題です。また最近はその器具さえかじってしまい、もっと丈夫な材料に替えなければならないと考えています。

 とにかく食害が多いのは11~3月。それ以外の月は、食害はあるものの、かなり少ない。この時期は数日ごとに見回り、癒合材を塗ったり行燈(写真:2)の点検をしたり、気が抜けません。この時期は苗木の植栽シーズンでもあり、植えたらその日のうちに行燈をしないと食害されてしまいます。他の管理作業もあるが、手を抜くと集中砲火をくらい樹が枯れてしまい、植え替えをする破目になります。とにかく、この作業を終えるまでは「帰りたいけど、帰れない」のである。10年近くこの作業をしていると、管理作業の一部と化してしまいました。このような状況が続けば、ウサギを捕獲して園外へ出すことを検討する必要があるかもしれません。とにかくウサギは増えたと感じます。最近では昼間も見かけるようになり、危なく草刈り機で切りそうになったことも幾度かあります。ある地域では家の庭に出てきたとの話もあります。

 長い間ウサギと向き合ってきたが、とにかく分からないことが多すぎます。なぜ、柑橘を時期的に好んで食べるのか、餌となるものは周辺にいくらでもあるのに。また、食害場所もバラバラで行動に一貫性がありません。だから長い間生き残っているのかもしれないが…。国の特別天然記念物だけに許可の問題もあり、研究者の皆さんも手を付けにくいのかもしれません。

 これまでのところ、奄美大島内でのウサギによる食害報告は大和村、奄美市、瀬戸内町となっているが、他町村に広がることは疑いようもなく、被害報告市町村でもひどくなる一方。昨年はケナガネズミが柑橘の果実を食べていることも報告されています。このような事例は、今後ますます広がっていくと予想されます。何があってもおかしくない。農家、関係機関でこれまで以上に情報共有を図り、共生に向けてアイデアを出し合い、スピード感を持ってやっていけば先が見えるのかもしれません。

 今年、大和村にウサギの施設ができました。今後研究者の交流も活発になるであろうし、地元に根差した施設として情報を発信してほしいものです。人が亡くなっても新聞の下に載るだけだが、ウサギの場合は異なります。アマミノクロウサギは世界遺産のシンボル的な存在であるのは理解できるが、最近ウサギを人間の営利のために利用しすぎてないか気になります。ウサギ以外にも貴重な動植物はたくさんあります。世界遺産になって何が変わったかよく聞かれるが、「何も変わらないのが世界遺産ではありませんか」と答えることにしています。

 貴重な動植物がいる場所に果樹園があるのだから仕方ないのかもしれないが、こちらも生活が懸かっています。とにかく、お互いが共に生きる道を模索するしかありません。