イノシシ捕獲用くくりわなに「混獲」「錯誤捕獲」されたアマミノクロウサギ(提供映像より)=2023年2月、徳之島北部
図1 受けに爪楊枝を3本刺した状態
近年、奄美大島と徳之島では、アマミノクロウサギの錯誤捕獲が確認されています。錯誤捕獲とは、農林水産業の被害防止のため、イノシシ等を捕獲するために仕掛けられたわなに、捕獲目的以外の鳥獣が誤って捕獲されてしまうことです。アマミノクロウサギについては、近年、天敵となるマングースやノネコの捕獲対策が進み、個体数が回復傾向にあります。それに伴い、生息域が広がり、農場近くに出現することも増えたため、錯誤捕獲されてしまう危険性が高まっています。
この問題に対応するため、県では2024年度に「アマミノクロウサギ錯誤捕獲防止対策」として四つの取り組みを行いましたので紹介します。①錯誤捕獲の実態把握、②錯誤捕獲防止技術の実証、③マニュアルの作成、④研修会の実施です。
まず、①錯誤捕獲の実態把握として、奄美大島・徳之島の全8市町村や環境省、地元の猟友会員等に向けたアンケート調査を実施し、希少野生動物の錯誤捕獲の事例の有無や、錯誤捕獲防止のために取り組んでいる工夫等について調査しました。調査結果として、市町村に対する錯誤捕獲の報告事例はないが、環境省や動物病院には5件の通報事例があることが分かりました。また、猟友会員へのアンケート(計208人)では、奄美大島で4人、徳之島で4人から錯誤捕獲の経験がある旨の回答がありました。錯誤捕獲防止のために取り組んでいる工夫としては、「くくりわなを設置する際、締め付け防止金具を通常より広い輪の状態で締め付けが止まるようにしている」「アマミノクロウサギの通り道となる獣道にはわなをかけない」といった回答がありました。
②錯誤捕獲防止技術の実証として、アマミノクロウサギが錯誤捕獲されないための足くくりわなの重量調整方法を実証しました。一般的にイノシシの捕獲のために使用される押しバネ式の笠松式くくりわなでは、受けの部分に爪楊枝を刺し、その本数を調整することにより、わなが作動する重量を調整することが可能です。飼育個体を利用した実験結果から、アマミノクロウサギが20㌢㍍ほどの高さから下りた際に地面にかかる荷重が平均8㌔㌘であることが分かり、これと爪楊枝の本数に応じた足くくりわなが作動する重量を照合した結果、爪楊枝を3~4本使用することにより、アマミノクロウサギの重量ではわなが作動せずに錯誤捕獲を回避できる(イノシシでは問題なく作動する)可能性が高まるということが明らかになりました(図1参照)。
また、同じく飼育個体を利用した実験結果から、アマミノクロウサギが移動する際の頭部や耳等の地面から最も高い位置が40㌢㍍程度であったことから、箱わなが作動する蹴り糸の高さを40㌢㍍以上に調整することにより、箱わなの作動を防ぐことができると考えられます。
そのほか、わな設置前に周辺をよく観察し、アマミノクロウサギの糞や食痕等を発見した場合、わなの設置を控えたりする判断も必要です。さらに、設置したわなの見回りは原則毎日行うことが義務付けられています。仮に錯誤捕獲が起こっても、早期に発見して個体への影響を小さくすることも重要です。
③マニュアルの作成、④研修会の実施として、①②の情報をまとめた「アマミノクロウサギ錯誤捕獲防止対策マニュアル」を作成し、狩猟者や関係機関に共有するとともに、25年3月4日に徳之島町生涯学習センターにおいて研修会を開催し、町職員や猟友会員等に対して、アマミノクロウサギの生態や保護の重要性について啓発するとともに、錯誤捕獲を回避するための捕獲技術等、マニュアルの内容を紹介するなど普及啓発を図ったところです。
もし、アマミノクロウサギを錯誤捕獲してしまった、あるいは捕獲されたアマミノクロウサギを見つけた場合には、環境省または文化財を担当する市町村の部署までご連絡いただきたいと思います。アマミノクロウサギは文化財保護法等により捕獲等の規制がかけられていますが、故意による捕獲でなければ罪に問われることはありません。皆さんの報告によって実態が把握でき、さらなる改善や対応につながります。報告・実態把握への協力をお願いします。