「共生」を考える 希少種による農作物被害の現場から 8

対策マニュアル策定、周知へ
農作物被害防止対策の取り組み 鹿児島県大島支庁 農林水産部農政普及課

1 はじめに

 野生鳥獣は、自然環境を構成する重要な要素の一つであり、それを豊かにするものであると同時に、国民の生活環境を保持・改善する上で欠くことのできない役割を果たしています。

 一方、近年、全国的に、イノシシ、ニホンジカなどの生息分布域の拡大、農山漁村における過疎化や高齢化の進展による荒廃農地の増加等に伴い、鳥獣による農林業への被害は、深刻化している状況にあります。

 こうした状況を踏まえ、鹿児島県では、鳥獣による農作物被害の防止・軽減に向けて、「寄せ付けない」「侵入を防止する」「個体数を減らす」取り組みを総合的に推進しております。

 また、鹿児島県大島支庁(以下「支庁」という)においても、支庁・各市町村の林務・耕地・農政担当部署、農業協同組合、製糖会社で構成する「奄美群島鳥獣被害防止対策推進会議」を設置し、奄美群島における鳥獣による農林業被害等の防止・軽減対策にかかわる各種取り組みを推進しております。

2 アマミノクロウサギによる農作物被害

 奄美大島、徳之島においては、国の特別天然記念物、国内希少野生動植物種に指定されている「アマミノクロウサギ」による農作物被害が、2017年度から確認されております。

 直近では、奄美群島内5市町村から、タンカン、スモモ、サトウキビ、サツマイモの被害が確認され、その被害額は年々増加傾向にあります。  

 冬場に好んで樹皮を食害することから、タンカン等の果樹において、幼木の枯死・生育停滞や、成木の樹勢低下による果実の品質低下も招いております。

3 アマミノクロウサギによる農作物被害防止対策等の取り組み

 (1) アマミノクロウサギの特性等

 アマミノクロウサギは、イノシシに比べて小型であり(体の大きさが小さく)、よじ登り、穴掘りにも優れ、全国的に流通しているイノシシ対策用の侵入防止柵では、侵入を防止できません。

 また、前述したように国の特別天然記念物等に指定されているため、有害捕獲による「個体数を減らす」取り組みはできない状況にあります。

 (2)アマミノクロウサギ対策会議の設置

 このようなことから、アマミノクロウサギによる農作物被害対策等を検討するため、17年度に、環境省奄美群島国立公園管理事務所(徳之島管理官事務所含む)、鹿児島大学(国際島嶼教育研究センター、農学部)、奄美市、大和村、瀬戸内町、徳之島町、天城町、伊仙町、大島教育事務所、支庁(衛生・環境室、農村整備課、農政普及課)で構成する「アマミノクロウサギ対策会議(以下「会議」という」(事務局‥支庁農政普及課)を設置しました。

 (3)アマミノクロウサギ農作物被害対策マニュアルの策定・周知

 会議では、各種情報共有や被害対策に関する検討を進め、アマミノクロウサギの基礎知識や生息状況、農作物被害対策等を盛り込んだ「アマミノクロウサギ農作物被害対策マニュアル(以下「マニュアル」という)を22年3月に策定し、その内容の周知に取り組んでおります。

 また、一層の周知を図るため、マニュアルの簡易版も発行したところです。

 さらに、アマミノクロウサギに関する最近の知見等もあることから、マニュアルの改訂版の作成について、検討を進めることとしております。

4 最後に

 アマミノクロウサギは、特別天然記念物であり、また、世界自然遺産登録を受けた奄美を代表する希少動物でもあり、今後とも保護していく必要があります。

 支庁としても、奄美大島及び徳之島の農業と、アマミノクロウサギが共生できるように進めていきたいと考えております。