和泊町長選挙の開票作業(22日午後8時頃、同町防災拠点施設やすらぎ館)
三つどもえの選挙戦となった和泊町長選挙は、現職の前登志朗氏(66)が、いずれも新人で元町総務課長の種子島公彦氏(63)と医師の川間公雄氏(67)を破り、再選を果たした。県内ワーストと言われた財政状況の立て直しを訴えた前回選。それからの4年間、決して順風満帆とは言えなかったが、財政改革を進める現町政を町民は再び選んだ。
◇総合交流施設
前氏は、今年の3月議会一般質問で総合交流施設建設事業について「一時休止する」と発表した。建設地の議論も不十分だとし、9月頃に発表される財政指標を見極めた上で判断する考えを示した。
5月に入り状況が変わる。選挙を前に公約を発表した前氏は「つくらない、という選択こそ次の世代への責任ある判断だ」と実質的な建設中止を宣言した。真意について前氏は「財政状況の詳細な見通しや試算を重ね、9月を待たなくても現時点で厳しいと認識した」と述べた。
この決定に反発したのが議会だ。6月議会最終本会議で町長に対する問責決議案を可決する。決議では、交流施設建設事業費を盛り込んだ今年度当初予算を可決後に建設中止を宣言したことに「町民をだます行為」だと怒りをあらわにした。
◇議会との溝
前氏と議会との間には、1期目の町長就任当初から溝があった。教育委員選任案の否決から始まり、パワハラ問題による副町長の辞職や教育長人事の難航などで対立が続き、議会内でも町長派と多数を占める反町長派とで意見が分かれた。
6月議会で可決された町長への問責決議案に賛成した議員7人のうち6人と永野利則議長が、種子島氏の支援に回った。
◇争点
前回選から2度目の挑戦となる種子島氏は、農業振興を公約の柱に据える。財政問題についても長年培った行政経験を強みに「しっかりとバランスを取る。使うべきところに使い、町民の生活を安定させる」と主張。総合交流施設については「白紙から検討」するとし「町民の総意を受けて、つくる、つくらない、を決定する」と訴えたが、有権者の支持を得られなかった。
川間氏は、後援会組織を作らず草の根活動で選挙に挑んだ。総合交流施設建設事業の「中止」を訴え、「その財源を子育て支援や高齢者福祉の充実に充てるべき」と指摘。中学校の給食費無償化や部活遠征・修学旅行費の負担軽減などを公約に挙げるも、訴えが浸透するまでには至らなかった。
◇町民の声
前回選、前氏と種子島氏の票差は45票だった。今回484票の差が付いたのは、種子島氏を応援した町議たちへの批判とも考えられる。
子育て中の30代女性は「議会を見ていても、大人同士でケンカをしているようにしか見えない。誰のために、何のためにやっているのか分からない。町の将来について話し合うのが議会ではないのか」と苦言を呈した。
多くの町民が、町営ケーブルテレビで毎回生放送される議会中継を視聴している。議員、執行部ともに町民から見られていることを忘れないでほしい。
◇農家の苦悩
今月20日からユリ球根の取引が始まった。選挙カーが頻繁に通る県道沿いのほ場で、汗だくになりながら球根の掘り取り作業をしていた60代男性は「収穫できるか不安だったが、なんとか出荷できる」と話した。昨年11月の大雨の影響で畑が水に浸かり、土と一緒に球根も流されてしまったという。
当時の様子を振り返った男性は「こんなことが毎年続いたら、土がなくなって農業ができなくなる」と不安を漏らした。
2024・25年期のサトウキビ生産量が36年ぶりに10万㌧を超えた一方で、農家は、人手不足や肥料・飼料価格の高騰などで苦しんでいる。これからは気候変動による赤土流出問題もさらに深刻になるだろう。
町長選から一夜明けた23日、当選証書を受け取った前氏は「持続可能な財政運営を行い、農業を中心とした産業振興を図っていく」と意気込みを語り、議会に対しては「建設的で前向きな議論をさせてほしい」と話した。
財政健全化の先にどのような町政運営をしていくのか。2期目の手腕が問われる。
(逆瀬川弘次)