「共生」を考える 希少種による農作物被害の現場から 10

アマミノクロウサギ対策会議による現地調査の様子

連携しながら共有し議論、課題解決へ
連載の最後に 河合 渓(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)

本連載では、研究者と農家、行政官という多様な立場から、奄美群島で現在起こっている希少種による農作物被害の現状と対策、問題点などについて報告してもらいました。連載の最後に本問題の総括をしたいと思います。

 

希少種による農作物被害が拡大している背景

本問題が起こっているのは希少種の保全が進み、回復してきた生息域が現在の農地と重なってきたことが大きいと考えられます。これは本連載で触れた外来種対策を含めた、長い自然環境への保全活動の成果ともいえます。特に1995年の奄美「自然の権利」訴訟、2017年の奄美群島国立公園指定、そして2021年世界自然遺産登録が大きな節目になり、奄美群島での保全が進みました。この節目において、生物の絶滅を引き起こす人為的要因の一つと指摘される生息地の消失への対策が進みました。一方、アマミノクロウサギ(以下クロウサギ)に関しては1963年に特別天然記念物に、2004年に国内希少野生動植物種に指定され、種としての保全も進みました。近年は狩猟における錯誤捕獲対策なども構築されています。そして希少種に大きな影響を与えていたフイリマングースやノイヌ・ノネコなどの外来種対策が進んできたことによって、希少種・在来種の生息状況がめざましく回復してきました。

 

農作物被害の現状

現在認識されている農作物被害は次のようにまとめることができます。農作物被害を起こしている希少種は本連載で主に取り上げたクロウサギのほかには、ケナガネズミによるタンカン被害が2024年に新聞報道されています。確認されている主な被害地は奄美大島と徳之島です。クロウサギの農作物被害は2014年頃に農家による最初の観察があり、2017年に農作物被害額として統計的に報告されています。この被害額は年々増加傾向にあります。現在の被害の対象農作物はタンカンやサトウキビ、スモモ、サツマイモなどです。最も被害額が大きいタンカンでは、理由は分かりませんが被害に季節性があり冬季に集中しています。

 

実施されている対策

少しずつですがクロウサギの生態解明も進み、その結果をもとにクロウサギ専用の金網柵と電気柵が考案され一部の地域では設置が進んでいます。徳之島ではクロウサギによる食害を受けたタンカンをふるさと納税の返礼品として利用するプロジェクトが立ち上がりました。さまざまな対策を立案・実施する対策会議も大島支庁に設置され、行政と研究者、農家による協力体制の構築や対策をまとめたマニュアルの作成が行われました。

 

問題点と課題

クロウサギ専用の柵は出来上がりましたが、すでにリュウキュウイノシシ用の柵が設置されている場合には、耐用年数の問題でクロウサギ用の柵の設置ができない場合もあります。また、被害対策策定の基盤になる被害評価と報告が十分でなく、実際より被害が低く見積もられている可能性が指摘されました。農家の方からはさまざまな情報が十分に提供されていないとの指摘もあります。柵の設置が行われた場合でもクロウサギを柵の中に入れた状態で設置してしまうことがあるなどの問題点も指摘されました。今後は対策会議での連携を中心に、精度の高い現状把握と評価、生態解明と対策策定、研修会の開催、そして関連情報共有と発信などが必要といえます。

 

将来への期待

解決に向けた体制と対策はできつつありますが、現時点では十分な結果を得るまでに至っていません。しかし、現在の被害対策は着実に広がり成果もあがっていくと思います。一方で、私たちを取り巻く環境は時間と共に変化しているので、新たな課題が日々生じ別の対策を策定する必要が出てくると考えられます。しかし、さまざまな関係者が連携しながら正しい知識を共有し議論を行っていけば、日々変化する課題解決にも迅速に対応していけると思います。小さな島で多様な自然を保全しながらも豊かな生活を送っていくためには、私たちが自然への畏敬の念を持ち、自然を身近なものとして接していくことが重要なのではないでしょうか。人と自然が「共生」した豊かな世界を将来の子どもたちに残したいものです。